第90話 滅びの俺

 いやっほーい! この章初めての俺のパート! ……って、さらわれとるやないかーい!


 おい、ニセバウザス、そんなに手荒に運んで、マジック・コンパイラを壊すなよ!


 俺はもがいた。いくらもがいてもコイツが放すはずがないことはわかっていたので、もがいた。……え? 「わかっていたの」じゃないかって? いや、「わかっていたの」。


 『めがみさま』の『しんでん』は、ルカンドマルアの遥か北方だった。途中、廃道、廃墟のようなものが上空から見えた。ああ、『しゅくばまち』か。マジック・ローダーが居なかったときは、めがみさまに魔法をもらおうと、みんなこぞって通った道。


 マジック・ローダーが滅びちゃえば、みな再び杖を求めて女神のもとへ人が押し寄せるだろう。この道も復活するんだ。

 そう思ってましたよ。俺も女神も。

 ……あーあ、違うんだなこれが。


 やがて、ジャングルの中に巨大な建造物が現れた。一面、植物が絡まり『しぜんにかえって』いる。

 ニセバウザスがその建物に俺を投げ込むと、すぐ女神の声がした。


「ここなら、誰も来ません。さあ、説明してください」

「いやはや、庭付きのいい家ですなあ」

「……何をおっしゃているのですか?」


 冗談が通じないや。えーい、どうにでもなれ!


「えー、今回私がご紹介するのは、『滅びの魔法』でごさいます。これで、マジック・ローダーの皆さんを滅ぼして差し上げましょう」


 背中にしょっていたマジック・コンパイラを降ろす。


「これさえあれば、もう、マジック・ローダーの皆さんはいらない子です……さあ、開けてみますよ」


 マジック・コンパイラは、2枚の板が合わさった構造になっていて、片側に蝶番があって反対側から開ける構造になっている。

 開けると、下の板にはキーボ……押せるものがいっぱいあり、上の板にはディス……文字が出せる領域、そして、左側にはブランクの杖を差し込む場所がある。


「さて、この押せるものを使って、呪文スクリプトを打ち込みます。ここに打ち込むのはエグゼルアの言葉ではなく、専用の言語を使います。……Hello, World代わりに、フィレクトの呪文でも打ってみましょうかね」


from mps.std.nature import Temperature

def firect(staff)

 return if staff.mp <10

 f=staff.geom.axis.fwd

 p=staff.geom.org

 forall (dt<5)

  %(now+dt).p = org + f*10*dt

  %(now+dt).Temperature.range(

     here => 300 / (|p-here|+1))

 end

end


「そしたら、呪胎を実行します。はい、これでフィレクトが完成です。なんと、魔法が使えないはずの私でも使えます。私が使えるように、ぱらめーた?をかすたまいず?してみたら、できちゃいましたー」


 といって、さっき差し込んだブランクの杖を手に取って、火を出してみた。


「ほら、マジック・ローダーがいないのに、呪胎できちゃいましたー。これがマジック・コンパイラの力です! どうですか? 女神さま」


 と言い終わった時、マジック・コンパイラは粉々に粉砕されていた。


「貴様……なんて物を作ったんだ!」


「ちょっとお怒りが早すぎやしませんかね。『でも、さぞかしお高いんでしょ』とかいう返しくらい期待していたのに」


「ふざけるな!」


 そういうと、女神はまた何等かの魔法を放とうとした、さっきマジック・コンパイラを破壊するときに使ったやつ。

「お……俺を殺すと後悔しますよ。今しがたお破壊されたのはただの試作品……、作り方を書いた本もあるのでね、また作ればいいんです。本はここには持ってきてませんけど」

「どこにあるんだ……誰が持っているんだ!」

「教えなーい」

「こうなったら、拷問にかけてでも突き止めてやる!」


―――――†―――――


 俺は、人生二度目の牢屋に投げ込まれた。真っ暗だ。

 後ろ手にされ、鎖につながれた。鎖は壁に固定されている。


「拷問……何をする気だ」

「今、そこは真っ暗だが気づいていないだろう……お前は今、恐ろしい魔物と対面しているのだ。その姿を見れば恐怖におののくだろう。助けてほしくば、白状しろ。『滅びの魔法』の設計図はどこにあるんだ!」


 牢屋に明かりが差し込まれてくる。


 俺の正面に、何かいる。


 初見ではだれもが驚愕するビジュアル。

 子供向けの絵本に出ようものなら、『おやごさんから、クレくれが』くるだろう。


 そんな、マイハニーがいた。


「……ダーリン、何やってんよ……1人でここにくるなんて、どおかしてる」

 俺と同じく、鎖につながれている。

「こうやって見ると、美人だよな……さすが高貴な方の娘。まあその頭は相変わらずだが」

「……なにそれ。あたしがハグしてこれないからって、冷やかしてんの?」

「そうとも言う」

「そんなじょお談言ってられんのも今のうちよ。ここに助けなんてこないからね。ここは700年前に、忘れ去られた場所……さらわれた時からパンくずでも落としてくりゃ別だけどさ」

「あ、そのワードこの章では使わないほうが……さんざんっぱら使い倒しておいてなんだが」

「そおなの?」


―――――†―――――


「拷問にも口を割らないのか! しぶとい奴め!」

 残念ながら拷問ではなかっただけだ。俺らがまもラボでイチャついてたの見てないんかよ。神様のくせに。


「こうなったら……ん? 何だ?」

「おかみさん、大変でやす!」

 人語を話す魔物っぽい声がした。

「正体不明の、でっかい鉄のトリのようなものが、こっちに向かっているでやす!」

「ふん……あいつら来たようね。出撃だ!……カギン、おまえもだ」

 え? 俺も?


 …………ワー!

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