第87話 意気地なし

 宇宙船の中に入ってみると、あの男と、おじいちゃんが。


「どうした、あれだけ訊いておいて、怖気づいてしまったのか」

「……やばいっすよ、それは。そんなんだったら……安請け合いするんじゃなかった」


「おじいちゃん」

「サーイか、帰ってきたのか。どうだ、メディは……」

「私が莫迦だったわ。何にも手がかりないのに駆け回っちゃって……」

 

「おいサーイ、お前がもったいぶるから、大変なことになったんだぞ! 『滅びの魔法』ってそういうことだったのかよ!」

 おじいちゃんと話しているのに、急に割り込まないでほしい。

「あら、マジック・ローダーが滅びるのは確かでしょ」


「そういう問題じゃない! マジック・ローダーはおろか、女神もろとも滅びるじゃねぇか! こんなん作って『はーいできました』って持ってったら、怒り狂うだろが!」


「じゃ、どうするの、やめるの?」


「やめたらやめたで、きっとあの女神、俺に責任とれだの、またマジック・ローダーが狙われるだの……やなことばっかり想像するなぁ、だけど、作ったとて、結局俺がひどい目にあうのは……


 意気地なし。

 私はカギンに、平手打ちした。


「女神が何よ!」


「あなたは、あの夫婦にずっと勇敢に立ち向かったじゃない、それを、今になって急にヒヨっちゃって!」

「お前は関係ないだろ、ひどい目に遭うのは俺なんだから」

「関係あるわよ! あなたに何があったって……私が、私が……」

 どうしてだろう、涙が出て来た。

「絶対、あなたを守るから……」


「おい、それ守れないフラグだぞ」

 それが、涙まで出して言った言葉に対する返しか。もうじゅっ回、平手打ちした。

「いい加減にしてよ……その変なお約束のせいで、登場人物も読者もみーんな迷惑してきたのよ! 終章ここはずっと私のパート、あなたの好きにはさせないから……。いいわね、完成させるのよ、『滅びの魔法』……でなきゃ、あなたは一生役立たずのデクノボーよ!」

「あ、それはつまり完成させるな……」

 私は構えだけ見せて、睨みつけた。

「いや、わかったって……」



「よ、平手打ちって痛いだろー?」

 イサキスが宇宙船の中に入ってきた。

「僕は、この日を待ってたんだ、また君と新しい魔法を作れる日を。……なーに、あの女神ヤロウなんか、サーイさんと僕らマジック・ローダーがいればザコだって」

「逃げたじゃねぇかよぉ、アシジーモもカルザーナも」

 まだそんなことを涙目で言う。

「あの二人を味方につけられるかどうかは、あなた次第よ」

「なんだよまた意味深なことを……」


「どうだカギン、覚悟はできたか」

「おじいちゃん……」

「私は、この魔法のせいで、ずっと辛い思いをしてきた。だから思い出したくもなかったし、自分がマジック・ローダーであることさえも忘れたかった……でも、この男はこの魔法を求めて、私を救出してまで訊こうとしてきた。私は、これに応えてあげなければ……」

「おじいちゃん、やめてよ。助けたのはコイツの手柄だ、みたいな言い方するのは……」


「私を助けたのは、カギンではない。サーイでもない……二人の間に芽生えた、愛だ」


 おじいちゃん! 何てこと言うの……私は言葉を失った。

「おおー、やっぱり平手打ちは愛情の裏返しなんだなー」

「イサキス! デタラメ言わないで! 今すぐカル様呼んできてぶっ飛ばしてもらうわよ!」

「うふふー♪ どーぞー」

「じ、じいさん、いいから、作ろ作ろ、マジック・コンパイラ」

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