第70話 不穏な指令
サーイは、これまで以上に失望した。
「どうして……こんなにも犠牲を払って……それなのに、見つからないなんて」
帰る途中。さきほどゾジェイの大群と戦った場所には、魔物たちの亡骸が散らばっていた。
「ごめんね……ごめんね……」
そう呟き涙を流しながら歩くサーイを見て、カルザーナが声を掛けた。
「ごめん……って、まさか、ゾジェイに向かって言ってるのか?」
「この子たちは、おじいちゃんをさらっていなかったのよ。なのに……なんで死ななきゃいけなかったの」
「何言っている、奴らは先制攻撃を仕掛けてきたんだ、紛れもなく悪の魔物……」
「悪って何よ! これじゃあ……どっちが悪なのかわからないじゃない……私はただ、おじいちゃんを助けたいだけなのに……あなた、私とWin-Winだって言ってたけどさ、結局あなたにとってはWinだけどさ……私は……負けたのよ!」
「……とんでもない。我々は、サーイのおじいちゃんを捜すためなら、何でもする」
「何でも、する、そう言いましたね」
「そうだが」
サーイは、賭けに出た。ここは、何であろうと隠し事はなし、洗いざらい述べてから、協力を仰ごう、と考えた。
「まず……ごめんなさい。私が、『あの人』について、ちゃんと説明しなきゃいけないですね」
「おじいちゃんを捜している、という、あの人か」
「カルザーナ様がおっしゃった通りです。あの人は、カギン、その人です」
「……そうか」
「カギンは、カルザーナ様たちから追放された、と言っていました。『滅びの魔法』のことで。そして、かつて、『滅びの魔法』を作ろうとしたマジック・ローダーも同様に、追放された、とも……。そして、カギンは私のおじいちゃんを捜している……ここまで言えば、私の言いたいことは、わかりますよね?」
「サーイ、お前のおじいちゃんの名前は?」
「マージ・パルカン」
「やはり、そうだったか」
「……あなたたちが一度は追放した人です。それでも、協力してくれますか?」
「………………」
カルザーナは俯いて額に手を当て、溜息をついた。しばらくした後、
「……これは、私一人では決められない。マジック・ローダーの仲間たちと、相談してからでも、いいか?」
「……わかりました」
もう日が暮れかけていた。サーイは再び、カルザーナの館に泊めてもらい、次の朝になった。
「カルザーナ様、早くマジック・ローダーの仲間たちと、相談をしてください」
「……わかった。行ってくる」
カルザーナはそう言ってどこかに立ち去った。サーイは、カルザーナのその言動が本心でないように感じ取れた。やはり、協力はしてくれないのではないか、という心配がよぎった。その時、
「サーイよ、イウカーマの制圧、よくやりました。わずか3日でこれだけの成果を挙げるとは、さすがは私の選んだガイトゾルフです」
クペナが現れた。
「申し訳ありません、私……ベルツェックル様との約束を破りました。私のおじいちゃんがマジック・ローダーであること、他のマジック・ローダーに知らせてしまったのです」
「それが、どう問題あるのでしょうか?」
「……ご存知ないのでしょうか。ベルツェックル様がおっしゃっていました。私のおじいちゃんがマジック・ローダーであることは、他のマジック・ローダーには伝えないで欲しいと……」
「ああ、『滅びの魔法』のことですか? 何の魔法か知りませんが、私は一向にかまいません。そんな、マジック・ローダー同士の諍いなど、興味ありませんし……もはや、私の……我々の目的は果たせそうですから。それより、ベルツェックルより次の指令です。受け取りなさい」
そう言って、紙を残してクペナは見えなくなった。
≪次の攻めるべき魔物の巣窟は、ザガリスタの南にある村。そこは魔物だけが住んでいるという、恐ろしい村だ。しかも、サーイの家族のことをよく知る者がいるという噂もある。有効な手がかりを押さえつつ、攻略してほしい≫
魔物だけが住んでいる村、というと、サーイはどうしても地上にいた時のことを思い出さざるを得ない。メディやデウザが住んでいた、あの村みたいなものだろうか。……ありえない。あの村を自分の手で葬り去るなど。彼らは自分たちを暖かく迎え、協力してくれたのだ。もはや、悪の魔物ですら倒すことに負い目を感じ出していたサーイは、嫌な予感を抱いた。
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