第43話 氷の洞窟

 ゾジェイ。


 魔物の盗賊団で、特に「獰悪どうあく」で人間を「煮て食う」風習もあるため人々から恐れられている。


 テューナの神殿を根城にし、ルカンドマルアを幾度も襲った連中もそうだった。


 これからサーイが攻めようとしているライディアの洞窟。


 ゾジェイたちが、彼らにしかわからない言葉で話している。

(おい、テューナが沈黙したのは知ってるよな。)

(一体、何があったというんだ。今まで28年間、ガイトゾルフ連中など一切寄せ付けなかったのに。)

(恐ろしいヤツが入隊した、という噂だが……)


(大変だ! 洞窟の入り口に……、ガイトゾルフの女が一人……)


(あ? 女が? 一人? )

(アハハハ、何慌ててんだ。そんなヤツ適当にあしらっとけよ)

(そうだそうだ、レーでも盾にしときゃ、勝手に自滅しやがるぜ)



 洞窟の入り口から、すでに冷たい風が吹いてきている。


 中に入ると、氷柱のようなものが立っているが……普通の氷柱ではないようだ。動いている。


 ここで、アシジーモから貰ったソルブラスを使ってみた。

 使うと……青、つまり、レーと呼ばれる善の魔物。

 善の魔物は、こちらから攻撃しない限り、向こうから攻撃してくることはない。だが、ひとたび攻撃すれば、恐ろしい反撃を受ける。

 そのまま通り過ぎることにしよう。


 その時、奥から凍てつくような息を吐いてきた魔物がいる。咄嗟にソルブラスの杖を構えると、赤。すぐにもう片方の手に持っていたサガムで応戦した。相手は驚いたように逃げて行った。



(だ、ダメだ……レーに紛れて攻撃したのに、アイツ、俺だけを狙って来やがった! )

(へん、そんな遠くから撃つからバレるんじゃねぇか、レーのフリをしておとなしくしてろ。至近距離から殺るんだ。)



 やはり、この洞窟には善と悪の魔物が混在しているようだ。洞窟は薄暗く、魔物の姿はあまり判別できない。

 注意深くソルブラスを向けていると、あることに気づいた。本当に動かないただの氷柱には、ソルブラスは反応しない。つまり、これは魔物の善悪だけでなく、魔物そのものの存在を知る手がかりにもなる。


 ときおり青く光るソルブラスだったが、ある魔物に向けた瞬間赤に変わった。奴は、近づくまで攻撃をしないで待ち伏せしている……先手必勝。その場でサガムを放った。相手はその場で倒れた。



(あのクズ、帰ってこねぇってこたぁ、ヘマしやがったな)

(作戦変更だ、野郎ども行くぞ)



 いままで静寂に包まれていた洞窟が、にわかに騒がしくなる。次々に魔物が立ちはだかった。赤に反応するソルブラス……いや、青か? 赤と青が交互に明滅した。


「オメェか、新しいガイトゾルフとかいうのは。これまでの連中に比べりゃあ、ちったあ骨のあるヤツのようだな!」

 人間の言葉を操るゾジェイもいるようだ。

「あなたたちなの!? おじいちゃんをさらったのは!」

「あん? おじいちゃんだぁ? 何言ってんだこいつ」

「とぼけたって駄目よ!」サーイは杖を構えた。


 その瞬間ゾジェイの連中は、周囲のレーたちを捕まえ、自分たちの前に突き出した。

「おう、やれるもんならやってみな、俺らの前にいる奴らは、全員レーだからな、オメェが攻撃したら、ヤツラも黙ってねぇだろ……ぐはぁ!」

 ルカンドマルアで、子供たちを人質にとった連中を倒したのと同じ要領で、後ろからの攻撃が当たった。


「くそ……コイツ、ヤベェぞ……うぐっ」

 洞窟内にいたゾジェイたちはすべて息絶えた。サーイは、彼らのとった人質がレーであったことに落胆した。洞窟をくまなく探したが、案の定マージはいなかった。

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