年上教官・掌編アフター――ルシファー&セラフィム編

神里大和@書籍新作準備中

彼岸にて

 この世ではないどこか。

 死者の魂が集う、虚無の果て。

 そこを、ふたつの魂が肩を並べて緩やかに漂っていた。


「セラフィム……済まなかった」


 ふたつの魂――その片割れはルシファーである。

 そして隣を漂うのはセラフィムだった。

 テアに見送られたあとの二人は、長らくぶりにようやく、彼岸の世界で、まともに言葉を交わし合うことが出来ていた。


「あら、何を謝っているのですか?」


 セラフィムは呑気な反応を見せていた。

 何に対して謝られているのかが分からない――そういう口振りだった。


「私は……愚かだった。あの時、天使の民族浄化が行なわれたあの日……私が堕天さえしなければ、ここまでの大ごとにはならなかったのかもしれない……」

「今更過ぎる後悔ですね」


 セラフィムはあっけらかんとしていた。

 女性は過去をどんどん上書きしていく生き物だというが、セラフィムもまたそうなのかもしれない。


「そもそも、あなたがそれを後悔してはなりません。あの日に殺された仲間のために、あなたはこれまでの道のりを邁進してきたのでしょう? そんなあなたが後悔を覚えてしまったら、あの日に殺された仲間が浮かばれません。……あなたの行ないは正しくなかったかもしれませんが、結果的に悪魔は滅びました。悪魔への復讐は成されたのです」

「ああ……」

「であれば、胸を張れとは言いませんが、自分のやってきたことを否定するのはやめましょう? その後悔は、テアの存在をも否定してしまいますからね」


 大義を成した息子の存在を、ルシファーは思い浮かべる。

 自分の血を引いているとは思えないほど、真っ直ぐに育ってくれた我が子。

 当然ながら、テアを否定するつもりなど微塵もない。

 さすれば後悔さえも、セラフィムの言う通り、すべきではないのだろう。


「テアは……私を恨んでいるだろうな」


 許されないことをした自覚はある。

 とてつもなく重い使命を託し、父親らしいことは何一つ出来ないまま、殺し合うことしか出来なかった。


「そりゃあもう、恨みに恨みを重ねているでしょうね」


 セラフィムは苦笑するように同意してきた。


「ですが、理解してくれているとも思いますよ。あの子は優しいですから」

「だとすれば、セラフィムに似たんだろう」

「ええそうですとも。あなたに似ている点はひとつとして存在しないかもしれませんね」

「……そうか?」

「ええ、そもそもあなたの子ではなかったりして?」

「――何?」

「ふふ、冗談ですよ冗談。焦らずとも、間違いなくテアは私とあなたの子ですから」


 そんな言葉を聞いて、ルシファーはホッとひと息ついた。

 同時に、セラフィムには敵わないな、とも思う。


「なんにせよ、あの子には幸せになってもらいましょう。私たちの分まで」

「ああ……そうだな」


 ここから現世の光景を拝むことは出来ず、それが非常に悔やまれる点ではあるが、それでもあの子なら万感の幸せをたぐり寄せることが出来ると信じている。


 そう考えつつ、セラフィムとルシファーはゆったりとした彼岸の流れにその魂を任せ続けていく。

 今まで交わすことの出来なかった、とりとめのない会話などを行ないながら、いつまでも、いつまでも――。

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