episode8
「君は何者で、何がしたいんだ?」
いつしか聞かれた言葉に、僕はどう答えたんだっけ?
僕の代わりなんていくらでもいる、とは、そりゃそうだ、としか言いようがない。
だけど、僕以外ならこの会話はなかっただろう、とは自信を持って言える。
剣を持ってきているとは、反則もいいところですね、とぼんやり思いながら、床でのんびり思考する。
僕は死なない、死ねない、なぜなら僕は沢山後釜がいる。だから、僕は寂しくはない。
なんで? どうしてこうなったのだろう。何が正解で、何が間違いなのか。はてさて正解なんてあるものだろうか。
今日の噂は、なんだったっけ。そうだ。遺産を不法に奪われた男と、それをやった男。最初の男の妻ときて、最後に彼が来ると思ったら、最初の男が戻ってきたのだったか。
本当に欲しいものは、なんだったのだろう。それを見つけるまでここを出ることなんて出来ないはずなのに。なんで彼は戻ってこられたのか、分からないな。
「人間なんて、1つ欲望を叶えたらまた浮かんでくるものだよ」
ぴょいっと彼が小屋の窓から入ってくる。そんなところから入ったことなんてなかったのに。何故だろう。
「それは、君が扉の前で倒れてるからじゃないかな」
ああなるほど、どうりで目線が低いと思った。
どんどん眠くなる僕と対照的に、彼はどんどんと元気になっているようだった。
「ねえ、それ、痛い?」
痛いですよ、と答えると、さらりと笑って、彼は言った。
「痛いってどういうことなんだろうね?」
刺されたら分かりますよ、と言ってやったら、彼は大爆笑して、息も絶え絶えに、言った。
「僕は刺されなくても刺されても、痛いんだと思うよ」
どういうことだ、とは聞き返さなかった。聞き返せなかった。僕はもう僕ではない。
次の僕は、僕たりうるのだろうか。
紅茶の淹れ方から教えなくちゃいけないのか、と彼がうんざりした調子で言うのが聞こえる。
扉の影に隠れていた男が、彼を仕留めるのが見えた。彼も交換なのか、と僕はどんどん暗くなる目の奥で、光を見た。
遠ざかる男と、彼と、僕に対して、僕は言った。
「またのおこしを、お待ちしております」
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