25人目(?)の客人(?)
「今日は、どんなお客様がいらっしゃるのですかね」
僕がつまらなそうにテーブルを拭いていると、コンコン、と小さな音が扉から聞こえてきた。
僕は喜び勇んで扉へ向かう。
「こんにちは」
僕は、相手の可愛らしい黒目を見つめる。
ずっと目を見ていることは、喧嘩を売っていることになりかねない行為だが、彼と僕の間ではそれと大幅に異なった。
ぴょこぴょこ、と大きい脚と小さなふわふわした身体。可愛いものに惹かれる僕としては楽園だった。
その知り合いの白兎と戯れていると、いきなり扉が開いた。
「すいません!この辺りでウサギみま……」
僕の手にその兎がいることに驚き、さらに、気難しい兎に抱っこを許される僕を見て、その男性の顔に浮かんだのは複雑な感情。
怒りと、悲しみと、それから、悪魔のような囁き声が男の中に響き渡っているのだろうと僕には感じられた。
段々表情を歪めて、欲をむき出しにした男は、僕の手から、兎を引ったくった。
「もう大丈夫だからな、カリン」
「その方のお名前、カリン様と仰るのですか」
一つ忠告を、と僕がいうと、男は恐怖に怯えた殺意に満ちた目になる。ギラギラとひかるオレンジ色の目。
「カリン様が付けている、そのオレンジ色の首輪は、あなたが選んだのですか?」
「当たり前だろ」
怒りを露わにして、今すぐにでも暴れ出しかねない男の態度に、小さくため息をはく。
(……めんどくせぇな)
心の声を微塵も出さないように、固まった笑顔のまま、男に罪を叩きつける。
「あなたは、カリン様がお好きなのですか?それとも、好きなのは自分自身でしょうか?」
力任せにぶん殴られた私はそれでも真っ直ぐ立って、言った。
「あなたがその問いに向き合わないと、近いうちにカリン様が死んでしまいますよ」
と言って、僕は男が殴ってくる前に、問題に対する答えを提示する。
男の顔から光が抜けた。
「カリン……?」
さあ、兎ことカリン様はどんな余生を送ったのでしょうかね?
ああ、あの男の余生ですか?興味ありませんね。
人、というものをよく考えて、相手の立場に立つ、というものをよく考えて、出直してきなさいな。
「またのおこしをお待ちしております」
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