第133話

 上位魔神と竜姫が見守る中、桃色髪の鬼娘と竜人族の戦いが続いた。

 竜人族二体と鬼族の姫の戦闘力は拮抗していて、決定打に欠ける。ララが戦斧で勝負を賭けに行けば竜人族はそれを阻止し、逆に竜人族もララの素早さと膂力の前では大技を使えない。

 相性が良くないとは言え、おそらく竜人族が一体であればララが勝っていたであろう。しかし、さしもの鬼族の姫でも、二対一で連携が整っている竜人族を同時に相手にするのは骨が折れる様だ。


 ──今まで戦いは任せていましたが、こういう相手との戦い方を想定した訓練も必要かもしれませんね。


 上位魔神は今回の戦いを通して、そんな感想を抱くのだった。

 ティリスにせよ、ララにせよ、並大抵の相手に遅れを取る事はほぼない。しかし、互いに苦手なタイプというものはいる。

 ララの場合は、ティリスや竜人族の様に全体の能力が相対的に高く、魔法を使うタイプを苦手としているし、ティリスもララの様な近接戦闘のスペシャリストには<支配領域>だけでは対処できない。また、巨大大食植物の様に魔法耐性や再生能力が高い相手は二人共苦手だ。


 ──今は良いですが……もし、今後魔王軍と構える事も視野に入れるなら、このままではダメですね。


 魔王軍の層は深い。幹部級であれば、ネームド・サーヴァントと化した上位魔神の力をも容易に上回るのである。個々人の戦い方をしていては、いずれは勝てない敵が出てくるだろう。


「二人がかりでいつまで遊んでいるか! 鬼族に力で勝ろうなどと思うな。これ以上の苦戦は許さぬぞ!」


 しびれを切らしたエスメラルダが、竜人族二体にそう声を掛けた。

 それから竜人族は顔を見合わせ、一斉にララから距離を置いた。二人は上空へ飛んで散り散りになったかと思えば、同時にララに向けて魔法を放ち始めたのだ。


 ──まずいですね。こうなる前に決着を付けたかったのですが……。


 ティリスは内心で舌打ちし、ちらりとエスメラルダを見る。竜姫も横目で上位魔神を見るや、鼻でふんと笑った。

 竜人族はプライドの高い種族だ。おそらく近接戦闘での戦いで鬼族を圧倒したかったのだろうが、それが適わぬと見て、戦法を変えてきたのだろう。


「ちぃッ、糞っ垂れめ」


 魔法を使い始めた途端、鬼族の姫が防戦一方となる。次から次へと来る<火球>や<氷槍>、<風刃>の魔法に反撃の手立てがなかった。

 その中でも<風刃>が厄介だった。<風刃>はそれほど強い魔法ではないが、圧縮された風が斬撃となって、対象者を追尾する。避け切る事は不可能な為、防ぐには必ず戦斧を用いなければならず、動きが止められてしまうのだ。その隙に距離を置かれて、ララの射程範囲に敵が入らない。

 鬼族の姫の体力が尽きるのが先か、竜人族の魔力が尽きるのが先かという持久戦になりそうだ。しかし、持久戦に勝って魔力が尽きた頃には、ララとて体力がかなり削られている。その状態で二体の竜人族を相手するには、かなり厳しいだろう。加えて、魔法を避け続ける事も容易ではない。それを証明する様に、ララの息は徐々に荒くなっていた。

 そして、その攻防がもう暫く続いた時──ララが足を滑らせ、体勢を崩した。


「やっべ、まずった……ッ!」


 ララがそう呻いた時には時遅く、二体の竜人族が放つ<火球>と<風刃>が目前まで迫っていた。


「ララ、避けて下さい!」


 柄にもなく、ティリスは声を上げていた。

 今更言ったところでもう遅い事も、ララも避けようと必死に頑張っている事も解っている。しかし、それでも彼女は声を上げてしまうのだった。アレクの事以外で声を大きく上げたのは、彼女にとっては初めての事だ。

 直撃する──誰もがそう思った時に、ひとりの女の声が響いた。


「主よ、彼女を悪しきものから守り給え……!」


 その声と同時に、聖なる光の防壁がララの前に現れ、二つの魔法を掻き消した。


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