8章 竜族との戦い

第130話

 鬼族の姫と竜人族との戦いが始まった。

 ララの先制攻撃により鳩尾に肘打ち、からの回し蹴りを食らい、竜人族の片方は気絶。さすがララ、と言いたいところではあるが、今彼女は全力で打撃を加えていた。それにも関わらず、この竜人族は気絶に留まっている。それだけで竜人族の肉体的強度が推して測れた。


「アレク、ぼーっとしてないで早くルネリーデの手を持ってきて切断部分に固定して! その方が確実に治せるから」

「あ、ああ。悪い」


 ラトレイアの声により我に返ったアレクは、すぐさま千切れたルネリーデの右手を拾って、彼女の手首に固定する。

 ラトレイアの<治癒魔法ヒール>は欠損部分をも治せる事で有名だ。しかし、機能までも完全に治せるかと言われれば、確実ではないらしい。

 欠損したまま長らく放置されていた場合は、部位は治せても元通りに動くまではかなり時間を要するのだと言う。今回の様に切断された直後の場合は、切断部位をぴたりとつけて結合してしまう方が機能面に於いても確実だそうだ。

 アレクはルネリーデの手首の切断面をしっかりと密着させて、ララの戦闘へと視線を戻す。

 先程は火炎の吐息を直で受けていたので焦りはしたが、彼女は闘気で吹っ飛ばしていた。

 そのまま何合か打ち合わせていたが、ちょうど今ララがもう一方の竜人族を蹴り上げて、彼女も跳び上がったところだ。そこからは空中戦となったが、小さいながら翼がある竜人族は滞空時間が長い。ララの斧撃が当たらず、苛立っている彼女の顔が地上からでも目に見えた。

 そのまま空中で戦っては不利とわかったのだろう。ララは斧を円状に振り、その遠心力を利用して回し蹴りを食わせて、敵を遠くに蹴飛ばした。

 斧に視線を集めたところで、蹴り──ララは時折、こういった戦い方をよくする。

 彼女の背丈に似合わぬ大きな戦斧はそれだけで視線を持って行かれるので、それを利用して打撃を与えるのだ。ティリスとの戦いでもそれで回し蹴りを食らわせていた。

 ララは蹴り飛ばした竜人族がどのあたりに落ちたかを確認してから、アレク達がいるところまで降りてきた。そのまま気絶している竜人族の足首を掴むと、「あらよっと!」と軽く放り投げた。軽く放り投げてはいるものの、まるで槍投げの様に飛んでいっている。

 おそらく、敵が目を覚ました場合にアレク達が襲われる可能性を鑑みたのだろう。ティリスだけでなく、彼女もアレクやラトレイアの身を案じた戦い方をする様になっていた。こういった気遣いも〝夜明けの使者オルトロス〟として何度か戦闘を経験したからだ。


「おい、ララ! 大丈夫か?」


 アレクが声を掛ける。今のところ優勢ではあるものの、それはあの竜人族の不意を突いたところだ。彼ら二人が連携を取り始めたら、さしもの鬼族の姫でも苦戦を強いられるかもしれない。


「へーきへーき。あんな蜥蜴、あたしに掛かれば楽勝だっつの」


 ララがVサインを作って笑顔で応えた。


「ただ、ちっと時間はかかるかもしれねえから、その隙にしっかりとそいつの体治してやってくれ」

「任せなさいって。その代わり、あいつらボッコボコにしてきてよ」

「あいよ。それこそあたしに任せときな」


 桃色髪の鬼姫は聖女と軽口を交わしてから、再び戦場へと戻って行った。


「本当、ララちゃんも逞しくなったわね」


 ラトレイアは治療を続けながら言った。


「まあ、な。最初は意思疎通が割と不安だったんだけど、最近だとこっちの考えも読んでくれる様になったよ」


 彼女の成長は、まるで子を持つ親の様に嬉しい。


「それより、ルネリーデは大丈夫か?」

「ええ。手や脚の傷も完治すると思う。でも、ほんとに瀕死の状態だったから」


 アレクの時みたいに暫く目は覚まさないかも、とラトレイアは付け足した。


「そうか」


 体が元通りになるのであれば、まずは安心だ。


 ──出来れば、これからもララの好敵手であってくれよ。


 アレクは心の中でそう剣聖に語り掛けると、ティリスと女の竜人へと視線を移した。


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 書籍版5巻では、これの前にララ視点での戦いが描かれています。よかったらそちらも読んでみて下さい。


https://kakuyomu.jp/users/kujyo_writer/news/1177354054893746321


 また、カクヨムコン用の新作を投稿致しました。

『学校一の美少女がお母さんになりました。』

https://kakuyomu.jp/works/16816700427764382975


 二年連続入賞目指して頑張りますので宜しくお願い致します!!

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