【幕間】とある剣聖に起きた悲劇(剣聖編)

とある剣聖に起きた悲劇

 剣聖・ルネリーデ=シュナイダーは、剣の名家として由緒正しい家系で生まれた一人娘だった。才能に愛された彼女は、十歳を超えた頃には大人に勝る剣技を身に着けており、二十歳を迎える前にルンベルク王国内で最強の剣豪・剣聖の称号を与えられた。

 また、ルネリーデは剣の腕だけでなく、その容姿も神から愛された女であった。長い金髪と碧眼、そして白い肌を持つ美しい女。その外見から、剣の女神などの異名で呼ばれる事もあった。

 生涯に渡って敗北経験がなく、魔族であれ何であれ、単純な武力対武力で、自分に勝るものなどいないと信じていた。

 しかし先日、剣聖は初めて敗北を期した。相手はテイマー・アレクのサーヴァント──ララと名乗る鬼族の姫クイーン・オーガ──で、彼女の必殺剣もあっさり防がれてしまった。手を抜かれていたのも、なんとなくルネリーデは察していた。彼女の攻撃には、殺気がなかったのだ。それにも関わらず、彼女は手も足も出なかった。

 そして、その戦いに負けた彼女達は、仲間であった聖女・ラトレイアをもアレクに奪われてしまった。いや、奪われたという表現は正しくない、と彼女は思っている。ラトレイアは自らの意思で勇者パーティーを離れた。彼女の心が壊れかけているにも関わらず、救ってやる術を知らなかった自分の所為だ、とルネリーデは考えていた。

 聖女・ラトレイアの離反は、マルス一行にとって大きな損失となった。彼女の〝回復師ヒーラー〟としての役割はもちろん、〝強化術師エンハンサー〟としての能力も高かった。如何に普段から彼女に助けられていたかを、前衛で戦うルネリーデは特に感じていたのだ。

 それに加えて──


「マルス王子、前を!」


 ルネリーデは横を見て声を張り上げる。

 マルスは「あっ……」と気弱い返事と共にハッとして前を向いて、敵の攻撃を防いだ。ルネリーデは眼前の敵を斬り捨て、慌ててマルスの加勢に向かい、敵を屠った。

 マルスは「ありがとう」と力なく言い、心配そうに見上げるシスター・シエルに対して「大丈夫だよ」と頷いていた。

 その様子を見て、ルネリーデは心中舌打ちをした。勇者マルスはアレク一行に敗れた時、何か呪いを掛けられたらしく、夜眠れなくなってしまったのだと言う。以降、戦闘中に気を抜いたり、先ほどのように集中力を切らす事が多くなってきた。このパーティーに前衛は剣聖ルネリーデと勇者マルスしかいない。片方の前衛がこれでは、ルネリーデとしても苦労が絶えないのである。殆ど2人分の仕事を一人で行っているようなものなのだ。

 ラトレイアの欠如に加えて、マルスの不調。このパーティーはルンベルク最強と謳われていた頃とは比べ物にならない程、弱体化していた。


(書籍版『落ちこぼれテイマーの復讐譚』4巻に続く)

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 番外編『とある剣聖に起きた悲劇』の続きは、書籍版『落ちこぼれテイマーの復讐譚』4巻で読めます。以下のリンクを参照ください。

https://kakuyomu.jp/users/kujyo_writer/news/1177354054893746321

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