第127話

 今から何百年も前に種族間で争いが生じて、種族ごとに分かれて生活する様になった。人族は人族だけで国を作り、魔族も魔族だけで〝魔の領域〟を作ったのである。それ以外の様々な亜人──例えば鬼族や獣人族、蜥蜴人等──はと言うと、散り散りとなって集落を作っていたのだそうだ。

 しかし、彼ら亜人は元から数が少なく、それぞれが人族の侵攻を受けて、危機に瀕する事となった。それから彼ら亜人の多くは、元から魔族と近かった事もあって、魔族の傘下に入ったのである。これが今の魔王軍のルーツだそうだ。

 竜人族はと言うと、その亜人の中でも魔族の傘下に入らなかった数少ない種族だった。数こそ少ないが、個体としては魔族級に強く、更に竜もいる事から、人族を脅威としなかったのだ。彼らは魔族や人族とは別に、独自の生活圏を保っていたのである。

 しかし、ここ百年は目撃情報が一切なく、絶滅したのではないか、と考えられていた。


「その竜人族がどうして今更勇者を襲うんだ? まさか、魔王と竜人族が手を組んだ、とか?」

「それもないと思います。アレク様と出会うまで魔王軍に使い魔を放っていましたけど、そんな話は聞いた事がありません」


 今更竜人族が人族と争う理由も思い当たりません、とティリスが肩を竦めた。

 彼女の説明を受け、アレク達の視線がラトレイアへと向けられる。


「ちょっと、だから私を見られても困るんだってば。竜との関わりなんて、それこそ〝竜殺し〟くらいしかないのよ」


 聖女のその言葉に、アレクとティリスが目を合わせた。


「その〝竜殺し〟が発端だったのかもしれませんね……」

「え? どういう事?」


 ラトレイアがティリスに訊いた。


「彼ら竜人族にとって、竜とは祀るものなんです。彼らが祀っていた竜を、ラトレイア達が殺してしまったのであれば……」

「その報復、って事……?」


 ティリスの推測に、ラトレイアが顔を青くする。

 彼らが報復されるだけならまだ良い。しかし、これが人族全体に及ぶとなれば、話は別だ。

 勇者マルス達でさえ、たった二人の竜人族に劣勢に追い込まれているのである。たとえ数で人族が勝ると言えども、もし竜人族が町や村を本気で襲えば、その被害は計り知れないだろう。


「おい、話もいいけど、こっちも動きがあったぜ!」


 ララの声に、アレク達の視線が再び戦場へと集まる。

 戦場では、賢者アルテナが帰還魔法を唱えようとしていた。それにも関わらず、剣聖ルネリーデが単身で竜人族に斬り掛かったのだ。

 剣聖がいくら強いと言えども、それは人族の範疇だ。竜人族二人の相手を出来るはずがなく、敢え無く竜人族の爪が彼女の腹を貫いていた。しかし、剣聖はそれでも斬り返し、反撃する。


「ルネリーデ、早くこっちに来て!」


 賢者アルテナが悲鳴に近い声を上げて、ルネリーデを呼んだ。

 アルテナを見ると、彼女を中心に大きな五芒星が地面に描かれていた。その中にマルス、シエルと三人が入っている。帰還魔法の詠唱が完了し、すぐさま発動できる状態になったのだ。

 ここで帰還できたなら、アレク達の出番はない。どうなるのかと思って見ていると──ルネリーデは何と、アルテナに向けてにやりと笑ってから、水色髪の竜人に斬り掛かったのである。


「ちょっと、ルネリーデ⁉ 何してるの⁉」


 剣聖のこの行動に、聖女ラトレイアも驚愕の声を上げる。

 ルネリーデは今、生存の選択肢を捨てたのである。


「早くしろ、アルテナ!」


 勇者マルスは剣聖を見限ったのか、帰還魔法を発動させるよう賢者に命令する。

 アルテナは悔恨の表情のまま帰還魔法を発動させると、彼女を含むマルス達三人が姿を消した。帰還魔法が成功したのだ。


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【お知らせ】


『落ちこぼれテイマーの復讐譚』6巻が発売しました。

 こちらの最新話はまだ5巻時の話ですので、未読の方は5巻から先にご購入下さいませ。

 引き続き、イチャラブテイマーを宜しくお願い申し上げます。

https://kakuyomu.jp/users/kujyo_writer/news/16816700427779579741

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