第126話
〝
彼らは今、ルンベルク王国領東部にいた。ルンベルク王国領東部は海岸へと繋がっており、最東部には港町プラウゼンがある。おそらくマルス達は海へ出て、別の大陸に移動するつもりだったのだろう。
しかし今、彼らは港町プラウゼンに辿り着く事なく、ルンベルク王国領東部半ばで敵襲の攻撃を受けていた。
敵は三人。亜人と竜だ。
竜と言っても、二足歩行の人型である。蜥蜴がそのまま人となった
「あれは……竜人、か?」
遠目で見て、アレクが呟く。
二人の竜人の後ろには、敵の代表らしき亜人の女がいる。
女の耳はエリマキトカゲの襟のようになっており、竜の鱗が腕の側面や顔にうっすらと散りばめられている。また、竜のような尻尾があった。
「はい、間違いなく竜人です。驚きました」
絶滅してなかったんですね、とティリスも少し驚いている。
竜人とは、太古に滅んだとされる種族だ。まだ今の様に人族と亜人が生活圏を同じくしていた頃、魔族や獣人族と共に竜人族もいたとされている。しかし、いつしか種族間での得手不得手から争いが生じ始め、種族ごとに分かれて生活する様になった。
魔族は〝魔の領域〟を作って他種族が入れぬ様にし、獣人族や竜人族、その他の亜人は散り散りになった。その過程で数の少なかった竜人族は、目撃情報もなく絶滅したと考えられていたのだ。
尤も、これらは歴史書で書かかれている程度の事だ。アレク達の生まれる何百年も前の話である。
「ねえ、それよりもかなりヤバいんじゃない? 実力差は歴然よ」
改めて戦況を見ると、マルス達は防戦一方だ。おそらくラトレイアの代わりに入ったのであろう司祭が、たった今腹を爪で貫かれて息絶えたところだった。
マルス、ルネリーデ、シエル、アルテナも息絶え絶えといった様子だ。しかも、竜人側はまだ代表の女が戦闘に参加していない。部下の竜人二人だけで、マルス達は全滅の危機に瀕しているのである。
「……強いな」
アレクは竜人達の動きを見てそう呟いた。
竜人族は驚く程の強さだった。肉体的強度までは定かではないが、身体能力で言えば鬼族の姫と同等クラスの動きである。しかも、炎の吐息や<火球>の魔法等も使っているので、戦い方はどちらかと言うと上位魔神に近い。
無論、マルス達とて弱いわけではない。蜥蜴人の軍を武力で圧倒し、蜥蜴王も討伐した上に、〝
竜人族は、それこそ魔族に匹敵する程、人族を遥かに凌駕した力を持っていたのだ。
脅威ではないと判断したのか、空のように美しい水色の髪を持つ竜人族の女がマルス達に何かを語り掛けていた。
「何か話しているな……何でマルス達は竜人なんかと戦ってるんだ?」
アレクはラトレイアに訊いた。
勇者マルス達について最も詳しいのは、先月まで彼らと行動を共にしていたラトレイアだ。少なくともアレクよりは彼らについて詳しい。
しかし、聖女は首を横に振った。
「わからないわよ。竜人族なんて、歴史の教科書以外で初めて耳にしたもの。もちろん、見たのも今が初めてよ」
ラトレイアは声を潜めてそう答えた。
「そう言えば、お前ら
「いえ、それもないと思います。蜥蜴人は鬼族と同じく、魔族側についた種族です。竜人族とは関係ありません」
アレクの問いに、代わりに
「その辺の種族間の事を俺達人族は全く知らないんだけど、教えてくれないか?」
アレクは
ララは「あたしは勉強してねえからさっぱりわかんねえ」と両手を空に向けて、首を竦める。
アレク達の視線は、自然とティリスへと向けられた。
「えっと……私もそれほど詳しいわけではありませんが」
ティリスは困った様に眉を寄せつつも、アレク達に種族の流れについて簡単に説明した。
──────────────
【新作を公開しました】
『とある弱小貴族の成り上がり』という作品を公開しました。
https://kakuyomu.jp/works/16816700427176273749
こちらは書籍化等の予定はございませんので、とりあえず10万字くらいまで投稿するつもりです。
よかったら読んで下さい!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。