転移魔法を使う条件
「にしても、ちょっとのんびりしすぎたな。急がないと勇者に追いつけない」
ラッド兄妹の家に立ち寄ってから、数日が経過していた。
「あの、アレク様。非常に申し上げ難いんですけど……」
少し言い難そうに、ティリスが切り出す。「どうした?」と訊くと、彼女はおずおずと続けた。
「実は、その……馬車を使わなくても、私の転移魔法を用いれば、一瞬でバンケットの近くまで移動できてしまいます……」
あのあたりならレスラントに行く前に一度立ち寄ったので、とティリスは申し訳なさそうに付け加えた。
「……それならそうと言ってくれ」
深く嘆息して、呆れたように美しい魔神を眺める。
ティリスは「すみません……」と申し訳なさそうに
転移魔法は人族の間ではすでに失われた魔法とされていて、魔族の中でも使えるものは数少ない。というのも、使用に際して膨大な魔力を必要とするからだ。
ちなみに、勇者パーティーに属する賢者アルテナも、帰還魔法が使える。帰還魔法は転移魔法の下位魔法に当たるもので、術者が定めた場所にしか移動できない。しかし、それでも術者への反動が大きく、魔力が一時的に枯渇し、何日か魔法を使えなくなるのだという。その為、アルテナが帰還魔法を使うのは、パーティーの全滅が危ぶまれるような危機的な状況のみ。幸い、俺がパーティーにいた頃は使用する機会がなかった。
一方の転移魔法は、術者が頭で思い浮かべられる場所ならどこにでも移動できるそうだ。一度行った事がある場所や、妖気や魔力などで位置が特定できる者の場所なら、馬車ごとでも瞬時に行けるらしい。
通常であれば、この転移魔法クラスになると、
その助力というのが──
「その……アレク様に、
顔を赤らめて恥ずかしそうに言う。
要するに、俺と交わるのが彼女の力の源だという。ティリスの力は、マスターである俺の生命を分け与えられることで、更に増すらしい。これが本当なのか嘘なのかはわからないし、他の〝ネームド・サーヴァント〟が同じかも定かではない。少なくとも職業ギルドではそのような話を聞いた事がなかった。
もしかすると、彼女が俺と体を重ねたいが為の言い訳かもしれない。もしそうであれば、可愛いなと思ってしまう。
「ティリス、こっち来て」
彼女の名を呼び、客車から俺の横に座らせる。
手綱を片手で持って馬を止めると、もう片方の手で彼女の肩を抱いた。何も言わずに彼女は俺の方に寄りかかってきて、切なげな瞳をして俺を見上げてくると……どちらともなく、唇を重ねた。
ここ数日ですっかり慣れてしまった彼女は、ごく自然と自分から舌を絡ませてくるようになった。蜜のように甘い唾液と極上の柔らかさを持つ舌を同時に味わう。舌を絡ませ、吸い出し、優しくその舌を噛む。小さく喘ぐ声が艶めかしく、そして可愛らしい。
こうしていると、テイマーとサーヴァントという関係を忘れ、ただの愛し合う男女になってしまう。俺達は、毎日こんな事を繰り返して移動していたのだ。
「アレク様……」
紫紺の瞳が何かを渇望するように潤んでいた。白い肌がみるみる赤くなっていって、もじもじとしている。
「なに? 何かあるならちゃんと言わないとわからないけど?」
「アレク様、いじわるです……」
これ以上は恥ずかしくて言えない、というように、俺から視線を逸らしては、ちらちらとこちらを見ている。
「なに?」
「……
沸騰してしまうのではないかというくらい、顔を真っ赤にして湯気を立てている。
さすがにこれ以上言わせるのは可哀想だ。
「全く……しょうの無い奴だな」
言いながら、もう一度彼女の唇を奪う。すると、とても嬉しそうに恍惚とした表情を浮かべた。外観はどう見ても十代の娘なのに、恍惚とした表情は艶めかしくて、その
というより、絶世の美少女からここまで求められて、我慢できる男などいるわけがないのだ。
「言い出したのはお前だからな」
ティリスを馬車の客車に押し倒すと、美しい銀髪の少女は、こくりと嬉しそうに頷いた。
そのまま街道のど真ん中で、俺とティリスは日が傾くまで互いを貪り合っていた。時間がないだの、移動がどうのと言っていて、呆れる他ない。
ちなみに
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。