ティリスの作戦
「私から離れないで下さいね。でないと、この乱戦の中では守り切れる自信がありません」
俺達は、桃色髪の鬼娘がいる方面──キング・オーガとは逆──の西側の戦場にいた。ここを突破して
はっきり言うが、とてもではないが作戦と言えたものではない。力づくで突破するだけだ。
戦場の中でどうやって契約の交渉をするのか、と訊いたところ、「きっと大丈夫です」だった。とんでもない無計画っぷりだ。しっかり考えてそうで、もしかしてティリスってその場の行き当たりばったりで生きてる子なのかもしれない、と思わされた。
いや、無計画と見せかけて、彼女には何か考えがあるのかもしれない。あってほしい。あるよな?
そんなわけで、今から戦場に乗り込む。いくらティリスがいると言っても、俺は生身の人間だ。オーガの攻撃なんて食らったら、そこらに転がっている騎士の死体と同じように、上半身と下半身がさよならしてしまうのだろう。
痛みを感じる前に死ねて楽そうではあるが……こんなひしゃげた死体にはなりたくない。
ティリスが小さく詠唱すると、俺の体の周囲に違和感を生じさせた。先ほどまでかすかに感じていた風が一切感じず、空気の分厚い壁が周囲を覆ったように思えた。
これはティリスの持つ空間操作能力<
<
まさに攻防自在。絶対者の固有能力と言えるだろう。
この空間の中にいれば、ティリスの能力で俺にはいかなる攻撃も届かないようにされているらしい。ただし、それはあくまでも彼女から半径5メルト以内にいればの話だ。そこから出れば、俺はろくに装備もない一般人として、騎士とオーガの殺し合いの中に放り出される事になるのだ。
(くそ。かっこつけてついてくるなんて言ってしまったが……)
これは、彼女の邪魔をしているだけなのではないか?
俺がいると、彼女はその翼も使えず、飛んで戦う事ができない。かなりお荷物になっていると思えた。
せめて俺が自分の身を自分で守れるくらいには強かったらよかったのだけれど……確かに、こういった状況になってみれば、強いサーヴァントに護衛をさせたいというティリスの気持ちもよくわかった。いくら
「
「なんだ?」
「人族も殺してしまってもいいですか?」
思ったより過激な質問だった。
「まあ、そうせざるを得ない場合は、な」
少し考えてからそう答えた。
さすがに人族を殺すのは気が引けるが、それで俺やティリスが危険な目に遭うくらいならば、躊躇はしない方が良いだろう。
ティリスは「わかりました」と頷いて、歩き出した。俺も彼女の後ろについて歩く。戦場が近づいてくるにつれて、むせかえるような血の臭いが体内に入ってきて、吐き気を催した。
俺達は歩いて近付いているので、もちろん、まだオーガにも騎士にも気付かれていないはずだ。
戦場まで200メルトといったところだろうか。遠目に、人とオーガが殺し合っているのが見える。
ティリスはいきなり立ち止まったかと思うと……その戦場に向けて、いきなり<
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