第23話 前夜祭と後夜祭の実現に向けて②
五限目が始まってすぐ俺はいつものように多目的室でノートパソコンを立ち上げていた。
その隣にはもうすでに資料が持ち込まれており、それを見ただけでもげんなりとしてしまう。
チャイムが鳴って数分後。
ちょうどノートパソコンのデスクトップが表示されたと同時に内村先生が多目的室に入ってきた。
俺は席を立ち、すぐさま内村先生の元へと駆け寄る。
「ん? 上村歩夢か。どうしたんだ?」
「その折入って話があるんですが、少しいいですか?」
「ああ、別に構わないが……」
内村先生は視線だけで言ってみろと話を促す。
「その……前夜祭と後夜祭の件についてなんですけど、開催に向けて今検討中で先生方の見解などを聞けたらなと思いまして……」
そう言うと、内村先生は顎に手を添えながら、どのくらいか沈黙を始めた。
俯き加減になっている顔は神妙な面持ちになっており、深く考え込んでいることが容易に窺える。
そして顎から手を離し、顔を上げた内村先生は口を開く。
「一応聞くが、具体的なことは考えているのか?」
「具体的な内容はほとんどまだですが、資金の調達に関しては概ねまとまった感じではあります」
「ほう……。では、その調達方法だけを聞かせてもらおうじゃないか」
内村先生は近くにあった椅子に腰掛けると、足組みをした上で腕組みをする。
それだけで異常なまでの威圧感が襲ってくるのだが……怯んじゃダメだ!
俺はうんと咳払いをしつつ、説明を始める。
「この学校はもともとからケチな部分が多いですよね?」
「まぁな。何かと節電、節約、経費削減とうるさいしな」
「そうですよね。だから俺たちは今まで前夜祭や後夜祭をやることに考えもせず、諦めてたんですよ」
「そうか。で、なぜ急にやろうと思ったんだ?」
「なぜという理由は特にないんですけど、俺たちは今青春の真っ只中じゃないですか? 青春ってたぶん人生に一度しかないし、ましてや高校生活も三年間という短い期間ですよね? そんな青春をもっと楽しいものにしたい……そういう思いで前夜祭と後夜祭をやろうと思ったんです。現に都会の学校とかでは普通にやってたりしてるじゃないですか?」
「そうだな。たしかに青春は限られているし、高校生活もあっという間に終わってしまうものだ。その限られた時間で楽しいことを増やしたいという気持ちもわからなくはない。が、ここは田舎の学校だぞ? 全校生徒約六百人のごく普通な高校だ。隣街の高校や少し大きな街の高校ですら前夜祭や後夜祭をやらない。私が高校生の時だってそうだった。そういうのをやるのはせいぜい首都圏や五大都市の高校くらいだ」
内村先生はどうやら反対姿勢のようだ。
隣街や少し大きな街の高校ですら前夜祭や後夜祭といった催し物を行なっていないことは事実。
他のところがやっていないのにここだけやるのはどうなのだろうかと思われるのも仕方がないと思う。
しかし、ここで諦めるわけにはいかない。例の作戦のためでもあるし、たった三年間という短い高校生活の中において、貴重な思い出作りにもなる。
別の高校がやっていないからここはやらないといった考え方でいいのだろうか? それはそれで反対意見としては不十分な気もする。
「とりあえず校長先生などに掛け合ってもらえないでしょうか? 資金調達の方法だって、地元企業を誘致して、文化祭で出店などをしてもらえればその契約金としていくらかもらうこともできますし、完全に不可能というわけではないですよね? というか、現実的な話だと思うんです。そこのところは実行委員が力を合わせて、各企業に訪問すればなんとかなるかと思います。なので、校長先生の許可だけでももらっていただけないでしょうか」
俺は腰を曲げ、最敬礼をした。
頭を下げているせいで内村先生の表情は窺えないが、しばし静寂とした空気が流れ始める。
それからして内村先生の深いため息が漏れ、俺は頭を上げた。
「わかった。訊くだけしてみよう。ただし、あまり期待とかするなよ? 節電、節約、経費削減を掲げているやつだ。そう簡単には許可が下りるとは思えんしな」
内村先生は俺の横を通りすがると、「ああ、そうだった」と言って、一旦立ち止まる。
「念のために報告書……じゃなくて、立案書になるのか? とりあえず、そんなもんを書いておけ。で、ないと説得する材料があまりにもなさすぎるからな。あと、出資してくれそうな企業だったか? そこんところも明後日までに探して、一緒に記しておくように」
「あ、明後日までですか?!」
そんな無茶な……。まだどこの企業にするかも決めてないのにそんな急ピッチになんてできっこない。せめて一週間くらいの猶予は欲しいところだ。
が、内村先生は振り返りもせず、淡々と述べる。
「文化祭の準備もあるんだぞ? そんな中でいきなりの前夜祭と後夜祭だ。あまり時間がないことくらい上村歩夢にもわかるだろ?」
「それはまぁ……」
「わかっているのなら、今からすぐにでもしたらどうだ? 企業探しくらいなら今日、明日を使えばなんとか十社は集まるんじゃないか?」
「じゅ、十社って……」
「あ? 前夜祭と後夜祭をやるからには少なくとも二十万程度は必要だろ? キャンプファイヤー的なことをするんだったら、それに使う木材を調達したり、何かしらで結構使う。一社につき二万であれば十社で済む話だ」
「ですけど……一社につき二万って可能なんですか?」
「さぁな。可能か不可能かはお前たち次第だと私は思うがな」
内村先生はそう言うと、次こそ多目的室から立ち去ってしまった。
俺は優樹菜の方に一度視線を送る。
すると、優樹菜は引き締まった表情でこくんと一回頷くだけ。
――やるしかないのか……。
とにもかくにも内村先生には話すことができた。
次は委員会での話し合いに移り、誰か知り合いに食べ物系の店をしている人を知らないか訊くのみ。
それにしても十社って……想定していた数の二倍なんだが…………。
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