第22話 前夜祭と後夜祭の実現に向けて

 文化祭の準備が順調に進んでいる中で、忘れてはいけないことが一つある。

 それは俺と優樹菜によるプロジェクト……。

 リスと明久をくっつけるというどう考えても無理なんじゃないかというようなこのプロジェクトも同時進行させなければならない。

 正直……キツい。これも考えなければならないとか無理。

 だが、一度引き受けてしまった以上はやり遂げなくてはならない。俺自身のプライドのためにもな。

 というわけで俺と優樹菜、リスの三人は昼休み、弁当を食べ終わった後、校舎の屋上へと集まっていた。

 場所は前回と同じく唯一日陰がある出入り口付近。

 ここはベンチなどもないから自然と立ち話になってしまう。


「それでシスコンさんとの進展はどうなっていますか?」


 壁に背を預け、腕組みをする優樹菜にリスは「キューン……」と項垂れてしまう。

 相変わらず何を言っているのかわからない。

 てか、前回の図書館では明久相手になんとか人語を話してたけど……ここでも話してくれないだろうか?


「なるほどですね……。進展はまったくないと……」


 優樹菜は腕組みをやめ、顎に手を添える。

 まぁ、リスの性格とかを考えれば進展してないのも容易に想像はつく。

 次の作戦と言っても文化祭がある以上、二人一緒に行動を共にするしかないだろう。幸いと言っていいのかわからんが、俺は一応文化祭実行委員の一人になっちゃってるし、本番も雑用云々をやらされる可能性が高いからな。

 そう思っていると、考えがまとまったのか優樹菜が顎から手を離し、再び腕組みに変える。


「前夜祭と後夜祭をやるのはどうですか?」


 優樹菜が俺に訊ねてきた。


「前夜祭と後夜祭って、去年の文化祭でもやってなかっただろ」


 この学校は何かと経費削減とうるさい。

 水道を使うにも『蛇口はしっかり閉める!』といった張り紙が至る所に貼られていたり、冷暖房もこまめに点けたり切ったりをしている。

 それらを考えると、前夜祭や後夜祭は現実的に考えて、夢のまた夢。難しいものになるのではないだろうか?

 だが、優樹菜は俺の考えを先読みしたかのように説明をしだす。


「前夜祭と後夜祭について以前は、この学校でも行われてたみたいですよ?」

「え、マジで?」

「はい、経費に関しても地元企業からの出資でなんとか賄われてたみたいですし、地元企業をなんとか取り入れればできるかもしれないです」

「でも、地元企業たって……どう取り入れればいいんだよ」

「それは簡単なことじゃないですか。各企業に出向いて、文化祭当日に出店などをしてもらうんですよ。端的に言えば、出張販売的なやつです。文化祭は結構な人が来校します。地元の小中学生はもちろん、地域住民の方や親御さん、他校生も来るでしょう。来校する人の数を考えれば、企業側にも多いにメリットはあるかと思います」

「なるほどな。要は出店する際の契約金的なものを払ってもらえればいいってことか」

「そういうことです」

「だけど、他の生徒は賛成しているのか? 前夜祭や後夜祭をやることに……」

「それはもちろんしてますよ。なんなら、最初の話し合いでも何度か話題になったくらいですから」


 となれば、前夜祭と後夜祭はほとんどの確率でできるかもしれない。

 あとは先生方の許可を取るだけか……。


「先生たちを説得するためにもまずは企業訪問をしなくてはいけませんね。理想ではスイーツだったり、食べ物系がいいかと思います」

「そうだな。とりあえずはこの話はまた委員会でした方がいいんじゃないか? 他の委員にももしかしたら食べ物系の店をしている知り合いがいたりするかもしれないし、契約金も含めてその時に話し合えばいい」


 前夜祭と後夜祭のひとまずの結論が出たところでリスと明久の話に戻る。

 リスは俺と優樹菜を交互に見ながら、話がついていけてないようで困惑した表情を浮かべている。


「キュ、キューン……」

「あ、リス……じゃなくて影山さんは何も心配しなくて大丈夫ですよ。作戦はもう考えついてますから」

「キュン?」

「作戦の内容ですか? そうですね……もし、前夜祭と後夜祭をする場合になったときの作戦なのですが、予め根拠も信憑性もない噂を流布しておきます。例えば、ありきたりなものになってしまうかと思いますが、前夜祭と後夜祭を共に過ごした男女は一生を添い遂げる的なものです」

「キューン……」


 リスの顔が急激に赤くなっていく。

 たぶん優樹菜の例え話を聞いて、照れてしまったのだろう。嘘の話なのに。


「今のところはこんな感じで進めていきますので、影山さんにはまた決まり次第連絡しますね」

「キュ、キュン……」

「不安ですか? 大丈夫ですよ。前回もなんとか上手くいきましたし、少しずつではありますが、着実に近づいていると思いますよ」


 俺的にはそうは思わないが……。


「キュン?」

「はい、本当ですよ。なので、最後まで頑張りましょ? 私たちがついていますから」

「キュ〜ン!」


 なんか知らないけど、リスは優樹菜の言葉に感銘したのか抱きついて、頬をすりすりとする。

 とにもかくにも次の作戦は決まったことだし、後は前夜祭と後夜祭を実現させるだけだな。

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