第18話 泳ぎ方の練習①
土曜日がやってきた。
俺と優樹菜は約束通り、朝から市民プールに来ている。
入場料を受付でさっと支払うと、さっそく水着に着替えて、中に入る。
施設内は意外にもガラッとしていて、隅の方で小学生くらいの男女を相手にした水泳教室が行われているのみ。
ほぼ二人っきりと言ってもいいのではないかというこの現状に多少ドキドキしながらも、俺たちはプールサイドまで移動する。
そして、二人してちょっとした準備運動を済ませると、水の中へと入った。
「それでは今から教えますけど……さすがに顔を水につけることはできますよね?」
「当たり前だ。それができなかったらそもそも風呂にも入れないだろ」
「そうですよね。じゃあ、まずは一回泳いでもらってもいいですか? お兄ちゃんのどこがいけないのか確認しておきたいので」
ということで、俺は二十五メートルを泳ぐことになった。
正直な話、俺は一度も二十五メートルを泳ぎ切ったことがない。せいぜい頑張っても五〜十メートルが限界だ。
俺はゴーグルを装着し、スタートの体制に入る。
一方で、優樹菜は一旦プールサイドに上がって、俺の様子を観察している。
「じゃあ、行くぞ?」
優樹菜がこくんと頷いたところを確認した後、俺は水中に潜り、思いっきり壁を蹴った。
自分の体が壁を蹴った反動でどんどんと前に進んでいることが感覚でわかる。
その勢いのまま俺はクロールの動きを開始し始めた。
足をばたつかせ、腕を交互に動かし、水をかき出す。
が、なぜか前に進めない。先ほどまでの勢いは嘘のようになくなり、今となっては前に進んでいるのかどうかも怪しい。
途中で息継ぎを繰り返し、諦めずクロールをやり続けるも、次第に体力が消耗し続け……とうとう足を着いてしまった。
俺は顔を上げ、どのくらい進んだかを確認する。
――って、あまり進んでねぇ……。
距離的に言うと、だいたい七メートルくらいだろうか。
あれだけ必死にクロールしたにも関わらず、ここまでしかたどり着けてないことに対し、もはや疑念すら抱いてしまう。
――このプール……もしかして、反対方向から人工波でも起こしているんじゃないか?
「もういいです。おおよそは把握しましたから」
優樹菜は大きなため息を吐きジト目で俺を見つつ、頭痛でもするのか、こめかみあたりに手を添えている。
俺はとりあえず、水中から上がると、優樹菜の元へ向かった。
「何かわかったか?」
「はい、一応は……。たぶんそこを直せば、お兄ちゃんはすぐに泳げるようになると思います」
「そ、そうか。その悪かったところってどこなんだ? 早く教えてくれないか?」
「その前に私がお手本で一回泳ぎますので、それを一度見ていてください」
優樹菜は水中に入ると、ゴーグルを装着する。
俺の方に目線を向けると、すぐにスタートした。
優樹菜はすいすいと水中を突き進んで行き、クロールを始める。
そのフォーミングはとても綺麗で、俺より激しくばたつかせていないのにあっという間に二十五メートルを泳ぎ切った。
「ざっとこんな感じですけど……何か違いに気がつきましたか?」
優樹菜が水中から戻ってくるなり、そう訊いてきた。
そう言われても、思いつくのはただ一つしかない。
「手足か? 俺よりばたつかせてないのに進んでいたし……」
「そうですね。お兄ちゃんの言う通りです。では、質問を変えます。手足の主にどこがどう違いましたか?」
いきなり難しくなってきたような気がする。
「どこがどう違うって言われてもなぁ……」
俺は考え、先ほどの優樹菜が泳いでいるところを脳内再生するも、なかなか見つけられず、時間だけが過ぎていく。
「どうやら、そこはわかってないようですね」
「ああ、まったくだ」
実際に自分のフォルムを見たことがないからなんとも言えないというところもある。
俺からしてみれば、ばたつき以外は全て同じように見えた。
「では、答え合わせ……といきたいところですけど、まずは水中にはいりませんか?」
というわけで俺たちは再び水中の中へと入る。
何がどう違ったのだろうか……俺は若干緊張しながらも優樹菜が見つけた根本的な原因を聞いた。
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