第224話:小うるさい大人たち
シアの家族をここに呼ぶ。
ここに──
朝になって船室から甲板に出て、辺りを見渡してからため息を吐く。
何もない。
いや、造りかけの小屋はある。
でもそれだけだ。
「こんな状況で、シアの家族を呼ぶってのもなぁ」
なんだか恥ずかしい。
家の一軒も持っていない男なのかよ!
とか思われたりしないだろうか……。
そもそも、銀狼族が安心して暮らせる──定住できる場所がないから、シアは十五歳で旅に出たんだ。
たくさんの銀狼族が一塊になっていたら、自分達が銀狼族であることがバレやすくなる。
それを避けるために家族単位で暮らし、だけど子孫を残すために成人したら旅に出て同族を探す。
探して出会えたら……あれ?
じゃあ銀狼族って、自分の気持ちとか一切関係なく結婚しちゃうってこと?
いやいや、それはあまりにも……。
だけど同族に出会えないまま一生を終えることだってあるんじゃないか?
出会えても同性だったらダメじゃん。友達にはなれるだろうけどさ。
「いっそ銀狼族全員が一緒に暮らせる町とか……いいんじゃね?」
でもそうするとシアは……誰かと結ばれる?
「銀狼族の町、欲しい!!」
「うわっ!? シ、シアッ」
船の縁で考え事をしていたら、急にシアが湧いて出た。
「ウーク、シア銀狼族の町作いたい!」
「銀狼族の……そう、か。やっぱりシアは銀狼族と一緒の方が、いいよな」
そうして同族の異性と出会って、結婚して、子供産んで……。
なんで俺、そんなこと考えてんだろう。
シアはずっと、俺の傍にいるもんだって……それが当たり前なんだって思ってた。
いや、思う事すらないほど、自然な感じでいたんだ。
「シア、お父さんとお母さんにウーク紹介すうの!」
そう言ってシアが抱きつく。
「え、しょ、紹介?」
「うん! シアはウークとずっと一緒。ずっと一緒にいたい人見つけたぉって、教えたいお」
お、俺とずっと一緒に……。
「シアは俺とずっと一緒にいて……その……銀狼族の男の人とは……えっと……」
結婚しないのか?
子供を産まないのか?
そんなこと、聞ける訳ねえぇぇーっ!
『同族と結婚して子作りせんのかと聞きたいのならハッキリ言え』
『もうあなたっ。二人はまだ若いんだから、急かさないのっ』
『でもハンナ。時には積極的になることも必要よ』
『そうだぞルーク。子孫を残したいなら、さっさと番になってしまえ』
「つつ、つ、番!? シ、シシシ、シア、ま、まだよく、わわ、わ、分かんないもんっ」
シアが駆け出してしまった。
……こんのクソエロ角シープーどもめえぇぇ!?
「あっ」
「あぅ」
角シープー小屋造りの作業をしていて、ふとシアの手と触れた。
今までだって触れたことは何度もでもある。
だけど今までと違う。
さっきのボスの言葉が脳裏に浮かんで、どうにも恥ずかしくて仕方ない。
触れた手をさっと引っ込めて、無言で木槌を打つ。
するとこうなる。
「イッタァァーッ!」
「ふえっ。ウーク、ウーク大丈夫!?」
釘じゃなくって俺の指を打つわけだ。お約束過ぎて恥ずかしい。
「だ、大丈夫だ。平気平気」
「ウーク指真っ赤だぉ。シアに見せて」
「え? 見せてって──」
ヒールが使える訳でもないだろう?
と言いかけて、俺の顔から火がでた。
木槌で叩いた指を掴み、そのままぱくっと口で咥えたのだ。
ちょっ、シアさん!?
ちゅーちゅーと音がして、俺の体が熱を帯びる。
ヤバイヤバイヤバイ。
「うわあぁぁ、大丈夫! もう大丈夫! あ、いやポーションぶっ掛けるから大丈夫!!」
慌てて鞄からポーション瓶を取り出し、それを頭から被った。
「ウーク、傷に掛けうのっ」
「お、おう!」
そして二本目を頭から被った。
あ、ポーションの量産もしなきゃなぁ。
ははは。
新しい土地だし、どこに何があるのかもまだ把握していない。
モズラカイコたちが近くの林に巣作りをしたいそうだが、いかんせんモンスターの数が多い。
あとゴン蔵談で説得力が全くないんだけど、この大陸のモンスターは他の所と比べると同種であっても強いんだとか。
毎日ボスとボリスがどっかーんっとふっ飛ばしまくり、奥様方も風魔法でばったばた切り倒しているからホント……強いのかどうかさっぱりわからん。
ただモズラカイコたちが、巣作りしたいけど船と、切り開いたこの周辺以外に行こうとしないのは、そうなんだろうなぁって。
銀狼族を迎え入れて町をと思ったが、これじゃあ危険だからここに呼べないよな。
「まずは周辺の安全を確保してからだけど……どうやって安全を確保するかなぁ」
「安全?」
「あ、いや。銀狼族の町を作るとして、今のまま人を呼んでも……あの有り様だろ?」
そう言って、森から出てきたモンスターを、楽しそうに追いかけ回すボリスを指差した。
「人が増えるなら、ここももっと広く切り開かなきゃならない。広くなるってことは、それだけ森と接する面積も増えるってことだ」
「そうだねぇ」
「警備面積が増えるってことにもなって、角シープーたちじゃ追いつかなくなるかもしれない」
「うぅ~……モンスターいっぱいだもんえぇ」
夜は日中の比じゃないらしい。
ただゴン蔵が船の横で寝ているので、奴らは恐ろしくて近づけないのだ。
だからってずっとゴン蔵に頼ってはいられない。
俺が死んだら──寿命でって意味だけど、そしたらゴン蔵は眠りにつく──と言っている。
一度眠ると数年から数十年は起きないのが、ドラゴンの特徴だ。
長寿であるゴン蔵は、下手すると百年単位で眠ることもあると。
そうなった時のことを考えて、ゴン蔵がいなくても安全で過ごせる場所にしなきゃ。
俺が生きている間だけを考えたってダメだ。
そうなると……
「あぁ! シアねぇ、シア、いいこと思いついた!」
「壁を作るしかないよなぁ」
「ガァーン!! シアが今言おうとしたのにぃ」
シアが思いつくようなことは、俺だって思いつくっての。
はぁ、結局人手が足りないまま、いろいろ頑張らなきゃならないのか。
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