第214話:帰島

 トロンスタ王には一応報告はしたが、既にディトランダ王から詳細は知らされていた。

 まぁそうだよね。

 ただあっちの王様が把握していない事情──ボリスたちのことなんかはこっちで改めて報告。


 さすがにトロンスタ王も少し呆れ顔だった。


「子供たちの大冒険か……飼い主に似たのであろうな」


 と、陛下が俺をちらりと見た。


 お言葉ですけどねぇ、冒険なんて出来ませんでしたよ。

 ダンジョンだって核がなくなった状態で入ったって、そうモンスターだっていないんだしさ。


『王様、ルークは飼い主じゃないよ』

『そうだよ。ルークは友達だよ』

『でしゅ』

『ンペェー』

『みんなもそうだって言ってるでちぅよ』

『ンペェ~』


 謁見の間にはチビたちも来ていた。

 ゴン蔵はもちろん入らない。

 角シープーの大人たちは面倒くさいからと、庭園の草を食べている。庭師の人が発狂しないか心配だ。


 人語を話さないチビたちも来ているので、謁見の間は今やもふもふランドを化していた。


「そうか、友か……よい響きだ」

『うん! だからね、お友達のルークが困ってたら、みんなで助けてやるんだ』

『父ちゃんたちもね!』

『でしゅ。お母しゃんも、ルークしゃん大好きでしゅから直ぐにでも駆け付けるでしゅ』

『海限定でちゅけどね』


 嬉しいことを言ってくれる。

 

 だけどこの時俺は気づいていなかった。


 陛下が一瞬見せた、渋い顔の理由を。






「というわけでして、戻ってまいりました」


 島に戻ってきた。

 転移装置の先は領主の館の執務室なので、そこにはエリオル王子が。

 既に陛下から聞いていたみたいで、特に驚くこともなく笑顔で迎えられた。


「ゆっくり冒険を楽しむはずだったんだろうに、残念だったね」

「えぇ、まぁ……チビたちが付いて来るなら、また話は別なんで」


 ボリスはまだ、角シープーの大人──と言えば誤魔化しがきく。

 だけどゴン太やクラ助ケン助は誤魔化しようがない。

 こいつら連れて歩いていたら、変なのに目をつけられるだろう。それと変なのに売り飛ばそうとする悪い奴らとかにも。


「予定より随分早く戻ってきてしまいました」

「まぁ仕方ないだろうね。疲れているだろうし、引継ぎなどは明後日以降にしよう。今日明日はゆっくり休むといい」

「はい、ありがとうございます」

「君の部屋は使っていないから、心配しなくていいよ」


 ん?

 じゃあどこを使っているんだろう──そう思ったら、元エアリス姫の部屋を使っているのだそうな。


 そっか。姫が城に戻ってから、あの部屋は誰も使っていなかったものな。


「よぉし。それじゃあ全員、かいさーん!」

『はーい』

『楽しかったねぇ』

『もう少し遊びたかったなぁ』

『ボリスは羨ましいでちゅ』

『そうでしゅ。いっぱい遊べてずるいでしゅ』


 お前ら……遊びにいったんじゃないんだぞって。


『遊びじゃないのよっ。さぁさぁ、帰りましょう』

『んっべっ』

『はぁーい』


 角シープーたちがとことこと階段を下りてゆき、観音開きの扉は侍女たちが開けてくれた。

 ぺこぺこと頭を下げて出て行く角シープーたちを、侍女たちは笑みを浮かべながら見送る。


『ゴン太よ、わしらも帰るぞ。クラ助、ケン助。おじちゃんが海まで送ろう』

『わーい! お空のお散歩でしゅー』

『お散歩お散歩でちゅー』


 ……遊ぶ気だな。


 チビたちを全員見送ると、それからラッツたちが疲れた顔してこちらも出て行った。


「ではご領主」

「お疲れ様でした」

「はぁ~。温泉行きたぁ~い」

「あ、いいですね。行きましょうマリーナさん」

「いこいこぉー!」


 温泉かぁ。俺もあとで入ろっと。






 エリオル王子からの引継ぎも済ませ、元の暮らしが再開して数日。

 島での夏がそろそろ終わりを迎えようとしていた。


「今年もいいワインが作れるといいなぁ」

「ワイン、シア嫌い」

「飲めないからだろ」

「シアそのまんま食べたいお!」


 シアはお酒が飲めなかった。未成年とかそういうのじゃなく、単純に味がダメみたいだ。

 ちなみに俺も、酒の味がダメで飲みたいなんて思わない。


「食べるためのブドウはちゃんとあるだろう」

「いっぱい食べたいもん」


 お前はひとりでいくつのブドウ園を枯らしたいんだ?


 ダンジョン探索の日々から、以前の日常に戻ってみて。

 少し物足りなさを感じることもあったが、島での暮らしは毎日なにかしらやることがあるので充実している──とも言える。

 今日もこれから、大きな納屋を建てるために木材加工錬成をしなければならない。

 それが終われば煉瓦の錬成と、ガラスの素材集めだ。


 秋には台風が来て、建物に被害が出ることもある。まぁ大きな台風は今のところ来たことないが、ガラスとか結構割れるんだよなぁ。

 割れてから慌てて用意するより、先に用意しておいたほうがいい。


 ってことで昼からは海岸だな。


「よし、一つずつ片付けていくか」

「おぉー!」


 まずは畑に──そう思っていたら。


「ルークエイン様ぁ。国王陛下からお呼びがかかっておりますー」


 ジョバンがそう言ってやって来た。


 陛下からお呼びがかかった?

 んー、なんだろう??


*****************************************************


新作の投稿を始めました。

https://kakuyomu.jp/works/16816452220563275175

勇者パーティーの最強バッファー。反転の呪いを受けてデバッファーになったので辺境でスローライフを送る?


転生転移ではなく、異世界現地主人公物です。

相変わらず・・・主人公はアレな・・・うん・・・カッコいい主人公とか・・

無理だよね(´・ω・`)

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