第212話:伝説となれ
「やはり転送屋であった。これまでは黙認してきたが、こうなってはそれも出来ぬな。取り調べの強化を、各国とも協議せねばなるまいて」
数日後、ディトランダ王国が調べたところ、メッサたちは複数の転移屋を経由してグインゴーニャからこの国に移動してきたことが分かった。
もちろん船で入国した者もいただろう。グインゴーニャから一番近い大陸の国はディトランダではない。そこから徒歩や乗合馬車で移動してきた連中もいるかもしれない。
これから先、グインゴーニャから大陸へと入国するのが困難になるだろうなぁ。
「近々首脳会議を開くことになるであろう」
「かの国の国王や側近たちには自業自得ですが、たまたまあの国を訪れていた冒険者や商人なんかはかわいそうですね」
「致し方あるまい。ことが事故、協力して貰わねば。それに、何も入国させぬとは言っておらぬ。身分証明をしっかり提示すればよいことだ」
まぁそれもそうなんだけど。
グインゴーニャは今回の件で、無駄に兵を失っている。
まずメッサと一緒に拡張ダンジョンに下りて行った連中だ。
アンデッド大行進後の翌日、俺たちとこの町のギルドマスター、ギルド所属の精鋭冒険者パーティーとでダンジョンに潜った。
精鋭パーティーの人が、地下五十階へと直通で行ける転移魔法が使えるという事で一瞬で移動。
そこにはグインゴーニャ兵の屍が累々としていた。
「こいつらはレイス系として召喚された兵だろうな」
というのがギルドマスターの見解。
ゴン蔵が小躍りして踏みつぶしたりなんたりしたゾンビの中に、グンゴーニャ兵に支給される装備を付けたのもいたらしい。
ゴン蔵はあのあと、しっかり体を洗って王都の聖職者様に体も清めて貰っていた。
ばっちーから……と。
とにかくメッサの計画のために、何百というグインゴーニャ兵が死んでいる。
更に海上から攻めようとしてやってきた海軍も、船諸とも損害が出ただろうな。ただ海に投げ出されただけなら他の船に拾い上げられた兵士もいるだろうが、皮鎧だろうが着ていたら溺れやすい。
実際、海のモンスターたちが暫くうじゃうじゃしていたらしいから……。
「しばらくは馬鹿な考えも起こさないでしょうね」
「起こしても実行できる兵力が残っておらんじゃろうな」
それもそうだ。
しかもこれから先、大陸側から睨まれることになるんだ。ヘタなことは出来なくなるだろう。
交易などにも支障が出るに違いない。
「ところで王様。
「あの二人か。どうするもなにも、我が国に仇なした訳でもないからのぉ」
そう……あの二人──アルゲインとエンディンだが、特に悪いことをしたという訳でもない。
リッチが召喚したアンデッドを、こそこそと横から奪っていただけだ。
もちろん、アルゲインの奴はリッチ怖さに向こうへつこうとしたが、しただけで実際には何もやっていない。
だからといって無罪放免ってのもなぁ……。
「ルークエイン男爵よ。あの者らの罪が決まった」
その翌日だ。
王様に呼ばれて謁見の間へと行くと、アルゲインとエンディンの二人が鎖に繋がれその場にいた。
「ルークエイン!? ボ、ボクちゃんを助けるじゃんっ。兄弟じゃん!?」
「それで、罪というのは?」
「無視するなじゃーんっ」
あんなのと兄弟とか、考えただけでリアルに吐き気がする。
「アルゲイン・ストラファンは、神から与えられしギフトを使って、我が国のダンジョンに生息するモンスターを使役した」
「……はぁ」
「まぁこじつけだと思うだろうが、その通りだ。心配するでない、ちゃんとした罪もある」
「……はぁ」
こじつけって分かって言ったんだ。なかなか愉快な王様だな。
だけど確かにちゃんとした罪があった。
まずダンジョン関係だと……
エンディンがダンジョンを耕したことで、それまでの生態系に変化が生まれてしまったらしい。
「農耕の才にこんな副作用があったとはな……」
「いったい何があったんです?」
そこから先はギルドマスターの出番だ。
彼の話ではここ最近、一部のダンジョンでリポップしてくるモンスターが強くなっているんだとか。
調べてみると、ダンジョンを耕した形跡があり、その周辺でリポップしたモンスターが同種の者よりちょっと強くなっていると。
そういやエンディンのやつ……鍬持ってたな。
「そのせいでダンジョンの攻略難易度が上がってな、怪我人も続出しておる」
「あっちゃー……」
「まぁそれに関しちゃあ、冒険者なんて仕事ですからね。怪我をするぐらいなら腕を上げろと言えば済むことだ」
と、ギルドマスターは豪快に笑う。
今のところ、それが原因での死者はいないとのこと。
他にもアルゲインは盗みも働いていたようだ。
何食わぬ顔で、留守中の貴族宅に「友人だ」とか言って入り込み、金品を持ってしれっと出て行ったりとせこい泥棒行為だ。
「恐らくダンジョン攻略時の護衛を雇う金欲しさであろうな」
「せっこいことするなぁ」
「と言う訳で、いろいろ罪が出てきたのだ」
しかし、アルゲインもエンディンも元はアンディスタン国民だ。しかも貴族階級の。
更にアルゲインはマウロナに雇われていたこともある。
アンディスタンとマウロナに文句を言う事だって可能だ。
だけどディトランダとてそうはしたくない。
「アルゲインについては、所属国籍不明状態であるからよしとして、エンディンに関しては先ほど、アンディスタン国王と話をした」
「強制送還、ですか?」
「いや。彼のギフトを我が国のために使わせて貰うことにしたのだ。それに関してアンディスタン国王からも了承を頂いておる」
エンディンのギフト……なるほど。農耕の才か。
この国は砂漠と荒野が国土の半分以上を占めている。
エンディンのギフトを使えば、どんな土地でも作物がよく育つようになる──なら、砂漠の緑地化も可能かもしれない!?
「アルゲインに関しては、今回の件で掘り起こされた死者の骸を元に戻させる作業をさせよう」
「しかし、アンデッド軍団を支配下におかれては、万が一ということも」
「心配ない。ここはダンジョン大国ぞ。古代のマジックアイテムならいくらでも所持しておる。その中に従属の首輪もあってだな」
いわゆる奴隷の首輪だ。ただの首輪じゃなく、逆らえばバツが与えられるとか、そんな仕掛けが施された物。
マジックアイテムなので、生半可なことでは解除できない。
エンディンは常に監視下におかれ、砂漠を耕し続けることになる。
アルゲインは死者の埋葬と、それが終われば盗んだ物を返済できるお金が出来るまでずっとタダ働きさせると言っていた。
まぁ終身間違いなしだな。
これでこの国も豊かになるだろう。
すぐにとはいかないが、何十年後かにはきっと。
頑張れエンディン。
お前はきっと、後世に偉業を残すことになる、はずだ!
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そのうちエンディン物語とか出来そうだ・・・
間もなく書籍版の発売となります!
近況ノートに少しだけ中身に関して?触れておりますので
気になる方は是非、ご覧ください。
https://kakuyomu.jp/users/yume-/news/16816452220421997790
また各種ネット通販サイトでのご予約も始まっております。
大判ですのでお高いですが、もし・・・もしよろしければ!!
(´・ω・`).;:…(´・ω...:.;::..(´・;::: .:.;: サラサラ..
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