第211話:最強決定戦

 怪獣大決戦が始まった。

 離れていてもピリピリとした緊張感が──


 ゴン蔵の体からまばゆい光が発せられた。

 そして口から怪光線が発射。


『たかがブレスなど効かぬわ!!』


 とかリッチが余裕こいて叫んだ。

 きっと実体のない霊体には、ドラゴンブレスも効かないのだろう。

 どうするんだよゴン蔵!?


 最強種族のドラゴンですら、リッチには勝てないのか……。


 なんて思っていた時期が数秒までまでありました。


「あ、あれ? リッチどこいった?」

『消滅した。さ。終わったようだから、お前たち、その辺の草を食べてきなさい』

『はーい『ンペー』』

「いやいや待って! リッチだぞ? 相手は不死の王だぞ?」

『それがどうした?』


 どうしたって……。

 ボスの奴はさも当たり前だと言わんばかりに欠伸までしてるし。

 あとハンナ。ずっと外壁の上でアルゲインとエンディンを正座させて、公開説教してるよ。

 あの、あんまり蹄がしがししたら、外壁が壊れるからほどほどにしてやってね。


 その外壁では、ゴン太が眩しそうに父ちゃんの方を見ていた。


「お前の父ちゃん、強すぎだろ」

『えへへ。ボクも大きくなったら、父ちゃんみたいな立派な神竜になるんだぁ』

「ははは。そしたら神竜が二頭になる────え?」


 神竜シンリュウ……って。


 この世界が創造されたとき、まず初めに大地が生まれた。

 そこに創造神の分身となる神が創られ、生まれた大地の一部を捏ねて神竜が創られた。


 なんて神話がある。

 嘘か誠か分からないが、とにかく神様は存在する。

 ファンタジーな世界だからね! 当たり前のようにいるんだねこれが!

 まぁ人の前にはめったに……いや、数百年に一回ぐらいしか現れないんだけどさ。


 そんで神竜だ。


 この世界には数頭の神竜が実在する。

 知られているのは三頭。


 炎のように真っ赤な鱗を持つ神竜と、黄金に輝く神竜。そして蒼銀に輝く……。


「ゴン蔵が神竜ウウゥゥゥゥゥーッ!?」

「え? ご領主、知らなかったんっすか?」

「ゴン蔵様、自慢げに『わしは神竜じゃぞ』って、よく言ってるわよ?」

「聞いてない! 俺聞いてないし!!」


 ただのドラゴンだって凄いのに、神竜って……神竜ってなんだよ!


 だいたい神竜ってもっとこう……神々しいものだろ?

 神聖で、威厳があって、超カッコよさそうな感じじゃないか。


 いったいどこの誰が、あそこで小躍りしてるドラゴンを神竜だろ思えるってんだ。


『がはははははは。リッチなんぞわしの敵ではないわぁ~』


 ゴン蔵が小躍りするもんだから、ここいら一帯が微妙に揺れている。

 地震発生装置め。


 あぁ、そういや忘れてた。

 ドラゴンでも上位種になれば、そのブレスは精神にまでダメージを与えるって。

 普通にレイスとかの、実体のないモンスターにも有効だったんだよな。

 それが神竜クラスだ。

 不死の王だろうと関係ない。


 魂とは、言い換えれば精神の塊だ。

 レイスだって死にはしない。死にはしないが、ターンアンデッドで成仏させられるし、魔法攻撃をすれば精神にダメージを与えられて消滅もさせられる。


 ゴン蔵はブレス一発で、奴の精神を根こそぎ削り取ったんだろう。


 ……リッチ・メッサ。ちょっと同情する。

 ほんと、何しに出てきたんだろうな。


 っと、リッチに同情している場合じゃない。

 ク美を止めないと、ディトランダ軍まで壊滅しかねない。


「ゴン蔵おぉぉぉ、ク美を海岸に近づけさせるなぁぁぁ」

『ん? なにかゆーたか?』


 バサっと翼を一度羽ばたかせ、ゴン蔵がやってくる。


 外壁上、阿鼻叫喚。


 すみません、ほんとすみません!


「だ、大丈夫です! ゴ、ゴン蔵はいいドラゴンですから! 人を食ったりりませんからっ」

『そんなマズいもん、誰が食うものか。で、何か言ったかの、ルークよ』

「ゴ、ゴン蔵。海岸のク美に、沖の方に行くように言ってくれっ。上陸しようとしたら、ディトランダ兵に攻撃されるぞってっ」

『むぅ。面倒くさいのぉ』

「頼むからあぁぁぁ」


 グインゴーニャはまだいい。攻めてきた方だから自業自得だ。

 でもディトランダが困るんだよ!

 トロンスタ王国と同盟国なんだから!


 渋々といった様子でゴン蔵が飛んでいくと、それに慌ててあちこちから悲鳴が聞こえてきた。


 ふ、ふふ。

 これどうしよっかなぁ。






「で、では、先ほどリッチを吹き飛ばしたドラゴンも、海上に現れたクラーケンも……そなた──ルークエイン男爵のご友人と?」


 当然のことながら、事情を説明するためにお城へ。

 ゴン蔵には王都から少し離れた場所で待機してもらっている。


「は、はい……。人を襲うことはありませんので。あ、訂正。攻撃されない限り反撃もしませんので、なにとぞ、手をお出しにならないで頂きたいのです」

「そ、それはもちろんだ。誰も好き好んでドラゴンやクラーケンに手を出さんだろう」


 それがそうでもないんだよな。

 名声だなんだのと、そういうの目的で向かっていく馬鹿はいくらでもいる。

 ゴン蔵もそういう冒険者とかにひつこくやって来られて、面倒くさがってたし。

 まぁ島に来てからは、冒険者育成みたいな感じで逆に相手してるみたいだけどさ。


「ル、ルークエイン男爵を救うために、ドラゴンとクラーケンが参った……というのか」

「いやぁ、そういう感じではないのですが」


 ゴン太とクラ助ケン助あたりが駄々をこねて、それなら全員で行こうかってなったんだろう。

 正直、立場と言うかなんというか……いろいろ自重して欲しいもんだ。


「おっほん。と、とにかくグインゴーニャ軍は撤退した。それはひとえにクラーケンのおかげであろう」

「我が子を守ろうとしただけですよ。グインゴーニャ兵が手を出さな得れば、ク美も何もしなかったんですけどねぇ」

「つまり我が兵も手を出していれば……」

「あ、いや……そ、それで、グインゴーニャ国はいったいなぜ攻めてきたのでしょうか!?」


 必死に話題を逸らす。

 だけどこれは大事なことだ。


「うむ。遅すぎる宣戦布告を先ほどしてきたよ。まぁその時には撤退しておったのだがね」

「いったいどういうことです?」

「宣戦布告はグインゴーニャの国王から使者を通じて届いた。その使者は転移魔法で送られてきたそうで、現場を見ずにこちらへとやってきたようだ」

「はぁ……」


 まさか海軍が半壊しているなんて思いもしなかったんだろうな。

 城下では悲鳴が上がっているし、きっと優勢だと思ったんだろう。

 その悲鳴がまさかゴン蔵を見てのことだとは思うまい。


 そしてディトランダ国王に宣戦布告の書状を手渡し、その使者はドヤ顔で


「降伏するのでしたら、ディトランダ王家以外の貴族の命は保証してやってもよいと、我が王は御慈悲をくださってますよ」


 と言ったらしい。

 思いっきり敗戦の、まさにその最中にだ。

 

 恥ずかしい。これはもの凄く恥ずかしい。


 ディトランダ王も側近たちも、正直それどころではない。

 空にはドラゴンが。

 海にはクラーケンが。

 その個体だけで軍隊すら簡単に捻りつぶせる存在だ。こっちの方がやばいに決まっている。


「そのご使者は?」

「現実を直視して、失神しおった。で、今は地下牢じゃ」


 随分と肝っ玉の小さい使者が来たもんだ。


 宣戦布告には、要約すれば「お前の国を大人しく寄こせ」ってことが書かれていたそうな。

 うん。お手本のような宣戦布告だね。

 まぁ失敗してるんだけどさ。


「これからグンゴーニャとはどうなります?」

「貴殿が心配することでもないが、まぁもちろん平和的解決などは出来ぬだろう。しかし侵略は諦めるしかなかろうな」

「諦める?」

「かの国は海に囲まれておる。他国に侵略するなら、どうやっても船を使わねばならない」


 その船──というか、海軍はク美によって半壊させられている。

 新しく船を作って、人数を集めて──まぁ何年もかかるよなぁ。


 けど気になることがある。


「リッチだったというか、リッチになった男? 宮廷魔術師のメッサと言っていました。奴とは迷宮で顔を合わせています。その時はまさか不死の王を蘇らせようとしていたとは気づかず……」

「魔術師ひとりであれば、潜入も容易かろう。入口の身分審査を強化させねばな」

「あ、いえ。奴はひとりではなく、恐らく何十人もの兵士と一緒だったと思うんです」


 そこであの地下で見た光景を王様たちに報告した。

 ボス部屋以外にも大勢いたこともだ。


 一度に大勢が来れる訳がない。

 何十回と別けて潜入したのか?


 いや、でも冒険者ギルドでは「大勢いる」と教えられていた。

 それ全部メッサの部下とかだったら……地上からちゃんと入ってるってことだもんな。


「港から入国したのなら我々の目に留まっていてもおかしくはありますまい」

「ではどこから入り込んだのだ、奴らは」


 船で入国した場合、あんなに大勢がやってきたら一発で怪しまれるだろう。

 じゃあ何回かに分けて?

 でも船はそうしょっちゅう入港してくるわけじゃない。何カ月前から準備していたんだってことになる。


 陸路?


 別の国を経由しなきゃならない。それに国境でやっぱり見つかるだろう。


 見つかることなく、人知れずこっそりってなると……。


 あぁ、心当たりがあった。


 俺も一度お世話になっている、闇転送屋さん……か。

 


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えっと、ここにURL出していいか確認していないので、とりあえずお知らせだけ

(´・ω・`)

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