第206話:アンデッド軍団の脅威
「理不尽だ!!」
「そうだ!メッサとかって誰だよクソが!!」
そんなことを愚痴りながら、俺たちは城下町を駆けた。
城下町では逃げようとして荷物をまとめている人や、空に向かって祈っている人、窓に板を打ち付けて補強している人といろいろだ。
人込みを掻き分けようやく門までたどり着いたが、その時には既に──
「今外に出てはいかんぞ!」
「もう奴らはすぐそこまで来ている。遠距離攻撃が可能な者は壁の上部から頼む!」
と、衛兵に言われて城下町をぐるりと囲む壁の上に上った。
城壁と同じく、高さは5メートル以上もある分厚い壁だ。まぁ中にも通路とかあって、そこから攻撃が出来るには出来るようなんだけど。
「槍じゃないとダメなんっすよご領主」
「小さい穴に槍を通して、壁に張り付いてる奴らを突き刺すぐらいしか出来ませんから」
「あぁ~。じゃあ剣を武器にしている俺たちは、ただただ邪魔になるだけなのか」
「「そういうこと」」
と、苦笑いのラッツとホーク。
マリーナさんは弓手なので壁の上から遊撃手として参加。サラさんもターナンデットで参戦。
シアも魔法が使えるので壁の上。
俺も石を投げられるので壁の上。
『ボクは!?』
「ボリスは……」
ボリスの技は、ヘタしたら壁をぶち壊す可能性もある。
正直、何もしないほうがいい。
「ボリス。万が一門を破られた時のために、俺たちは門の前で待機だ!」
『万が一って、起こる可能性が低いってことだよね! そんなのつまんないよっ』
「……誰だぁ、ボリスに勉強させてんのは!!」
ホークがどこかの誰かに八つ当たりしている。
まぁ確かに……変に賢いのも困りものだな。
『あんな死にぞこないなんて、ボクがどっかーんって一発でやっつけられるもん!』
と、鼻息も荒く蹄をかしかしするボリス。
うん、そうだな。お前ならゾンビの群れにだって平気で突っ込んで行けそうだな。
「でもなボリス、敵の数が物凄く多いんだ。いくらお前でも一頭じゃ無理だって。ほら、こっち来てみろ」
ボリスを壁の上に案内してやり、隙間から外の状況を見て貰った。
あぁ、ほんとうじゃうじゃいるよ。
数百とかいうレベルじゃない。数千……いや、万単位でいるかも。
「あのー……もしかして王都の周辺って、過去に戦場になてたりとか?」
近くにいるディトランダの兵士に尋ねると、彼は青ざめた顔で頷いた。
あぁ、やっぱりねぇ。
戦場で命を落とした兵士なんかも、アンデッドとして召喚されちゃってるねぇこりゃ。
「な? めちゃくちゃ多いだろ?」
だから無理なんだよってボリスを諭す。
そのつもりだったんだが、何を思ったかボリスのやつ、目をキラッキラさせて俺を見ながら、
『ルーク、行こう!』
とか言ってきた。
「は? はあぁぁぁぁぁ!?」
ボリスが鼻が俺の股間というかその下に差し込まれたと思った次の瞬間、ぽーんっと宙を舞う俺。
「ウーク! シアもシアもぉぉ~っ」
「いやシアもっていうか、あああぁぁぁぁ!?」
『行こう!!』
ぽふんっとボリスの上に落下すると、今度は急降下。
「うわあぁぁぁご領主うううぅぅぅぅっ」
「戻って来なさいボリスちゃん! ボリスちゃあぁーん!!」
「神様、ルーク様をお守りください。お守りくださいっ」
なんかそんな声が上の方から聞こえた。
そして慌てたラッツたちの姿も見えた。
あ……
俺……
アンデッドにもみくちゃにされるんだ……。
『うわぁーい! そぉれ、どっかーんどっかーん、どっかぁぁーん!』
どっかんどっかんじゃねー!
「ウーク、こいつらよわっちぃ」
「そりゃアンデッドだからな! 基本的には弱いんだよっ。あぁ、クソ!!」
こうなりゃ
ポーチに手を伸ばし、なんでもいいからとにかく投げまくる。
はぁ、本当は安全な壁の上から投げようと思ってたのにさぁ。
なんでこんなアンデッドまみれな所から投げなきゃならないんだよ!
しかもアンデッドだぜ?
スケルトンはいい。骨だから。
問題はゾンビなんだよ。肉片がそこかしこに飛び散ったら汚いだろ?
『ウバアァァァ』
「だから俺は壁の上で石を投げたかったんだよ!」
『ヴァ──』
『オヴッ──』
投げた石は、角シープーご婦人たちの風魔法石だったろうで、ゾンビが真っ二つ。
おげぇ。真っ二つになっても動いてるし気持ち悪いよぉ。
「ブレス石ブレス石……あったあった。ほいさっ」
至近距離に投げるのは非常に危険だ。こっちまで凍結してしまう。
弾むボリスの上で、出来るだけ遠くに投げる。
投げて──そしてゴォォォォっと音がしたらぶっといレーザー光線が発射され、その線上にいたアンデッドが凍り付いた。
幸いなのは、レーザー光線が必ず俺に対して、遠くに向かって発射されることだ。
たぶんブレスってことで、俺が吐き出している──というイメージなんだろうな。
俺たちの周辺にいたアンデッドはボリスのホーン・デストラクションやニードルクエイクでふっ飛ばされていく。
偶然にして助かったアンデッドは、シアが無慈悲に刈り取っていった。
周辺が少しスッキリしてくるとボリスから下りて、ロイスから貰った雷石をばら撒く。
「おほー! なかなか使う機会のなかったライトニングトールだけど、やっぱ派手でカッコいいなぁ」
雷と言えば厨二代表魔法だ。それだけにエフェクトがカッコいい。
あとスケルトンってからからに乾燥しているのか、放電を喰らって燃え出す奴もいた。
けどお頭の足りないアンデッド軍団は、そんな燃え盛る仲間に対して避けることもせず、密です! を保って飛び火する。
「あ、これ俺たちのほうにも火が来るな」
「危ないおウーク」
「悪い。じゃあ消すわ」
ここで取り出したるは、ク美から頂いたアクアブレス!
水を放出するクラーケン専用の技で魔法ではない。
ドラゴンが火や氷のブレスを吐くのと同じで、クラーケンは水のブレスを吐く。
「ってことで、消火開始!!」
石を投げると、どばぁーっと大量の水が放水される。
えげつない……
放水される水は、直径だけでも数メートルはあった。
ただ真っ直ぐ飛ぶので、直線状の火しか消せない。
ク美なら放水しながらその向きを変えられたり出来るんだろうけど、ここが付与石とは違う点だな。
が、ク美にアドバイスをちゃーんと貰っている。
『アクアブレスのあと暫くの間、周辺が水浸しになります。そこで──』
そこでこれ!
「ビックウェーブ付与石ぃ~! とりゃ!」
この水は魔力によって形成された一時的な水だ。時間の経過で消えてしまうらしい。まぁ消える前に飲めば、喉も潤せるけど。
この水が消える前に次なる石を投げこめば──
石が着弾したのだろう。俺の視界の先では、津波が発生していた。
ビックウェーブ。
これも水棲モンスターの一部が使える専用技だが、水のある場所でなければ発動しない。
今、ク美の魔力によって具現化された海水がある。
その海水が全て収束し、幅50メートル高さ5メートルほどの津波となってアンデッド軍団を押し流して行った。
「消火完了!」
「うおぉぉ、ウークすごぉーい!」
『よぉし、ボクも頑張るぞー!』
ボリスが走って行って、ニードルクエイクを発動させる。
その範囲は50メートル四方に及んだ。
うん。
なんかアンデッドが万単位でも勝てる気がしてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます