第186話:ボリスは役に立つ
翌日からさっそくダンジョンへ。
お尻の方は、なんてことはない。
ポーションをぶっかければ痛みもすっかり治まった。
「目指すは地下七階だ。ただ島のダンジョンよりも狭いダンジョンだから、三日ぐらいで着くはずだ」
『は~い』
いくつかの携帯用の転移装置石を取り出して、人目につかない町の隅のほうで位置情報をメモ。
それからダンジョンへと出発した。
こうしておけば今日の夜は町に戻れる。戻る前にダンジョン内で位置情報をメモすれば、明日はそこから再スタートできるって訳だ。
「さぁて、じゃあ行きますか」
「おぉー!」
『おぉー!』
意気揚々と出発した俺たちだが、一応周囲には目を光らせてある。
コアを破壊されて、だいたい一週間といったところか。
破壊した奴がまだこの町にいる可能性は……まぁ低いだろうけど、いないとも言い切れないんだよな。
俺がコアの修復をしている──と言えれば、きっと向こうから接触してくるんだろうけど。
破壊者を見つけてしまわないと、ヘタするとイタチごっこになりかねない。
目的がこの国限定のものなら、そのうち打ち止めになるだろうけどな。
一度コアを破壊され、復活したダンジョンは拡張される。
予想としてはまるっと倍の深さになる──はずだ。
ここみたいに地下七階だとしても、拡張されれば十四階だ。簡単に下りていける場所じゃない。
しかも階段までを記した地図もない。
最低でも攻略するのに数週間はかかるだろう。
そんなことを考えているとダンジョン前に到着。
「あっちゃー……人が多いなぁ」
『ここはまだコアがなくなってあんまり経ってないんでしょ? まだモンスター残ってるのかもね』
「そえともダンジョンの復活を待ってうのかも?」
「両方だろうなぁ」
規模が小さいってことは、拡張された階層に下りるのも比較的簡単だってことだ。
我先に新階層を攻略したいってんなら、狙い目でもあるんだろう。
復活したダンジョンは拡張されているって情報も、もう出回っていることだし。
「こりゃ最下層で待ち構えてる冒険者が多そうだなぁ」
『ルークが変なこと言うから、こんなにいっぱいいるじゃないかぁ』
「なんで俺のせいになるんだよ」
たしかにいっぱいだった。
道中でもこれまで行った三つのダンジョンと比較にならないぐらい、冒険者とすれ違ったし。
『ゴン蔵おじちゃんが言ってたもん。不吉なことを口にすると、だいたいその通りになるって。特にルークの場合はって』
「ゴン蔵のやつ……いらんこと吹き込むなよ」
そうだよ。その通りだよ!
二日目の夜にここ、地下七階へと到着した。
ボス部屋ではテントを張っているパーティーが、軽く10はいるように見える。
「ウーク。ダンジョンボスはあの人たちに任せぇばいいんじゃない?」
「そうだなぁ。あとはどうやってこっそりコアを修理するかだ。てかコアの欠片がちゃんとあるかどうか、先に確認するぞ」
集められているかどうか。集まっていなければ探さなきゃいけない。
これだけ人が多いと、そっちのほうが大変そうだ。
てくてくと歩いていくと、一斉に冒険者の視線が向けられた。
原因は──
「お、おい。君、その角シープーは?」
ボリスだ。
ギルドで聞いたけど、このダンジョンには角シープーと同種のダンジョンモンスターは出ない。
当然、注目を浴びることになる。
「あ、こいつは俺がテイムした地上モンスターの角シープーです」
俺は事前に用意しておいた嘘をでっちあげた。
それから訓練によってダンジョンを克服したって話もする。
みんな驚くが、ボリスが一声鳴いて首を傾げてみせると、たいていは口元を緩めて笑顔になる。
チョロいもんだぜ。
ん?
ボリスが注目を集めているなら……。
「ボリス。ちょっといいか?」
『なぁに?』
「あのな……」
ボリスにはコア用の台座から離れた場所で、可愛いアピールをするよう頼む。
全員の視線がそっちに注がれているうちに、俺とシアでコアの状況を確認するためだ。
すぐにでも錬成できるようならそれもする。
「頼めるか?」
『任せて! 僕かわいいから!!』
自分で自分を可愛いなんて言っちゃうのは、普通なら痛い子なんだけどな。
なんだけど、目をキラッキラに輝かせてぴょんこぴょんこ跳ねるボリスは、本当に可愛い。
大きくなろうが、強くなろうが、ボリスはボリスだ。
仕草がいちいち子供っぽくて、そのギゥアップがまたね、うん。
「よし、休憩後に作戦開始だ」
休憩用のおやつや飲み物は流石に持って来ていたので、テントは張らずに準備をする。
小腹を満たしたところで、ボリスがてててーっと壁際へと走って行った。
見ていると、そこで前足の蹄を使って穴を掘っているようだった。
『わぁーっ。見て見てぇ~。ねぇ誰か見てぇ~』
ボリスが人語を話すのは、訓練のたまものだ──と嘘を言ったが、誰も疑いはしなかった。
疑う前にこんなもふもふと意思の疎通ができることに、喜びを感じる人たちばかりだったからだ。
誰か見てぇ~と言われて、何人かがボリスの方へと向かっていく。
『僕こんなの見つけたの。ねぇ、これなぁに?』
ん? 何か見つけたのか?
「さっきねぇ、ボリスがウークの石を一個持っていったぉ」
「付与石か? あぁ、火を起こすのにプチファイア石を使ったもんな。予備で置いておいたのを持っていったのか」
付与石なら見た目は燃えるような模様が描かれた石だ。
俺以外の人が手に持っても危険はない。
魔術師曰く、魔力を感じるのでただの石ではないっていうのは、だいたい分かるんだそうな。
でも使えない。
安全且つ、不思議な石だから注目を集めるにはいいかもな。
やるじゃん、ボリス。
案の定、これはいったい何の石だって騒ぎ始めている。
騒げばさらに人が集まって来る。
「よし、欠片がどんな状態か見に行くぞ」
「あぃ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます