第174話:もちろん、こうする

「ふーん……周辺の温度を下げる魔法とかってあるんだ」

「ふーん」


 購入した腕輪を錬金BOXに入れます。

 鑑定します。


 銀の装飾腕輪に『冷彩コールドコート』という、冷気を纏う魔法が掛けられていた。

 店主の言う通り使用回数が制限されていて、残り九回だ。

 付与は蒼い石に掛かっているようで、上限に達すると壊れるらしい。


「冷彩っの使い道ってなんだろうな?」

「うー……火山とかぁ?」

「あぁ、火山地帯に行く時役に立つのか」

「うんうん」


 しかしだ。

 冷彩は付与魔法だ。


 もちろん、腕輪と付与魔法とに分解できる訳だよ。


「で、こうして増産用に一個だけ確保しておけば、いくらでも作れるっていうね」

「おぉ!」

「まぁ効果時間が一時間だっていうし、しかも上限が九回っていう半端なやつだけど」


 分解後、腕輪に再付与してシアに手渡す。

 シアはさっそく腕に嵌めると、蒼い石をきゅきゅっと擦った。


「あう……涼しくならないぃ」

「ん? でもさっきは……あ、もしかして俺が付与したからか」


 付与石を使えるのは俺だけ──というのと同じなのか。

 仕方なく俺が石を擦る。

 するとすぐにシアの表情が変わり、うっとりしたような目で俺を見た。


「はぁぁ~。涼しいぃ」

「へぇ、どれどれ?」


 シアの肌に手を近づけると、確かにひんやりする。


「効果が切れると石が壊れるってのが勿体ないよなぁ」

「でもいっぱい付与できうよね?」

「まぁ出来るけど。一回に月一時間。それが九回で石が壊れるし、その時は腕輪自体に付与するしかないか」

「石、きえいなのに」


 そうなんだよなぁ。


 もしかして、俺の剣みたいに上書きできないか?

 上書きというか、重ね掛け? 乗算?


 とにかくやってみよう。


「シア、腕輪をもう一回貸してくれ」

「う?」


 腕輪と量産用に作った冷彩石を入れて、付与。

 で、鑑定。

 すると上限が十八回になった!


 ふひひ。こりゃいいぜ。

 どんどん付与しまくって……でも面倒なのは一度の付与で数十回分とかまとめての付与はできないこと。

 いちいちは弧を開いて付与を完了させないといけない。


 まぁそれだけの手間だ。


 それで気づいたのは、回数もさることながら効果時間も一時間ずつ伸びていくことだ。

 寝ている間に擦るのも面倒だし、効果時間が二十四時間もあれば一日一回擦ればいいだけだから楽でいい。


 結果、効果時間は二十四時間。回数上限は二百十六回になった。


「これで半年以上は持つな」

「おぉ!」

「ま、冬場は使う必要もないし、一年ぐらいは使えるだろう」

「うふぅ、ありがとうウーク」


 嬉しそうに腕輪を撫でるシアを見ていたら、こっちまで嬉し恥ずかしな気分に。


 けどこれ……商売に出来るよな。

 出来るけど。


 錬金BOXを使うので人目につかない路地に入っていたが、そこから出て大通りに戻る。

 活気がある──とは言い難いし、俺ら楽して商売なんかしたら、その日の飯代を稼ぐのも苦労している人たちの生活を脅かすかもしれない。

 錬金BOXで作れるものは俺に富を産んでくれるだろうけど、そのしわ寄せが他の人にいくのならやめておいた方がいいんだろうな。






「はぁ、あじぃー」

「シアは涼しいぃ。ウークも涼しくしてあげぅ」


 そう言ってシアがハグしてくる。

 あぁ、涼しい。


 食料を買い込んで町を出て、徒歩でレッソの迷宮へと向かった。

 距離的にはそう遠くはないんだ。たださらっさらな砂の上を歩くので、疲れるし時間もかかる。何より暑い。


 ようやく到着した頃には、靴の中は砂だらけ。


「とにかく中に入ろう。一休みするのはそれからだ」

「おぉー!」


 腕輪のおかげか、シアってば元気いっぱいだな。


 ダンジョンの入口は、まるで古代遺跡のような雰囲気がある。

 壊れた石柱に、大理石のようにきらきらした石畳。

 その石畳にぽっかりと口が開き、階段で下りれるようになっていた。


 階段を下りてすぐだ。


 みんな考えることは同じなんだな。


 地上には人気がまったくないのに、階段下りると冒険者の姿が。

 階段の下段付近に腰を下ろし、徒歩でここまで来た疲れを癒しているってところだな。


「俺たちも水分補給しておこうぜ」

「うん。でも節約しないとねぇ」

「そうだな」


 ダンジョンまで砂漠を何時間も歩くことにならなくてよかった。

 三十分の間だから我慢していたし、途中で水気の多い果物をかじりながら来たからよかったけど、そうじゃなかったらダンジョンに到着するまでに水が減っているところだった。


「ここは地下十五階だ。この前のダンジョンより三階分深い。水筒の数を増やしてはいたけど、大事に使わなきゃな」

「うん。一番下まで行って、直ぐにお仕事できないかもしれないもんえぇ」

「そういうこと」


 最下層に他の冒険者がいた場合、彼らがどこかに行くまで待たなきゃならない。

 出来れば引き上げてくれて、数日待ちたい。

 調査に来ているのは金級ばかりだっていうし、そんなメンバーなら最下層モンスターだって平気だろうけど。


「ま、とにかく一番下まで行ってからだな」

「おー!」

「じゃ、お腹がすくまで進みますか」

「シアお腹空いたぉ~」

「……じゃあ俺がお腹空くまで進むぞ!!」

「うえぇぇ~っ」


 シアが抗議する中、二時間辛抱させて前進したが階段まではたどり着けませんでしたまるっと。



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