第172話:レゾルの町へ
「急にダンジョンが復活したらしいな」
「あぁ。中にいた連中は死に物狂いで脱出したらしいけど」
「死人が出なかったのが、不幸中の幸いだってなぁ」
「まぁ調査で入った連中のほとんどは、それなりに腕のいい連中だったそうだからなぁ」
「まぁあとは復活したてだったからか? モンスターの数も少なかったみたいだな」
「今じゃすっかり元通りだけどよ」
ダンジョンが復活した。
その話はどこに行っても持ちきりだ。
コアを修繕したことでダンジョンは復活。つまりモンスターもリポップを再開。
まだダンジョン内に残っていた冒険者のことを思い出して、必死に道中のモンスターを狩りまくった。
けど、酒場で話題になっているように、最初の頃はモンスターの数は少なかった。
いっぺんにモンスターがリポップするんじゃなく、じょじょに増えていく感じだ。
中には使い捨ての魔道具でダンジョンを脱出してきたパーティーなんかもいて、結局全員無事に地上まで出て来た。
「はぁ……次のダンジョンはどうするかなぁ」
「うぅ。困ったおぉ」
今からコアを修繕するので、ダンジョンを出てくださ~い。
なんて言えないもんなぁ。
さぁて、どうしたものか。
「次の目的地を決めたいと思います」
「あいっ」
酒場で聞こえてくる話や、冒険者ギルドで聞いたことなんかを整理して、次の目的地を考える。
「死んだダンジョンを攻略しようって冒険者は流石にいない」
「モンスターいないと、お金になーないからねぇ」
「そうだ。だけどギルドが調査依頼で雇った冒険者いる。あと取りこぼしの宝箱狙いの冒険者とかな」
シアが頷き、ディサイド迷宮で会った冒険者の人数を思い出す。
途中の階層と最下層。だいたい三十人前後だ。
「調査はある程度終われば引き上げるようだし、そのメンバーが地上に出たタイミングでコアの修繕を出来ればな。せめて上層階まで戻ってからだ」
「転移魔法陣使ええばいいのにねぇ」
「そうだよなぁ。転移魔法陣があれば、調査隊もしゅんって地上に戻ってもらえるんだけど」
「ウークの箱でつくえないの?」
転送魔法陣なんて作れるわけないだろう。
付与をするにしても、元となる魔法が必要だし。
携帯魔導転移装置……あれがあればコピーしまくれたりしないかなぁとは思う。
ただあれって高級品なんだよなぁ。
「一番最初にコアが破壊されたダンジョンが……ここだ。ってことは調査期間も一番長いから、そろそろ終わって冒険者も引き上げているんじゃないかな」
「もう誰もいない?」
「たぶん、だけど。とにかくさ、一度行って中に入っている冒険者がいないのを確認してから、コアの修繕をしようと思う」
それを並行して、携帯魔導転送装置の量産も考えてみよう。手持ちの金で買えるようなら、量産して冒険者に安価で売りつけるのもいい。
「ということで、次の目的地はここ──レッソの迷宮だ。近くにレゾルって町があるから、ひとまずはそこだな」
「さあくぅ」
「砂漠? うん、まぁ砂漠だな。レゾルは砂漠のオアシスにある町だ」
「あうぅ」
あぁそうか。シアは暑いの苦手だったもんな。
「ごめんな、シア。ディトランダ王国はどこも暑いから、お前の体調管理も大変だろう」
「ううん。シアはウークと一緒だからいいぉ」
「そっか。ありがとうな」
暑いのが苦手、寒いのが苦手だって種族は、ファンタジー世界ではあるある事案だ。
彼らはどうやって苦手を克服しているんだろう……。
シアの氷魔法を付与した石を持っていたって、特に冷たいと感じることもないしなぁ。
前世の記憶を探ると、ファンタジーものだとたまになんかあるんだよ。なんだっけ……。
体温調節の出来るアンクレットとかさ。
そう、そんな感じの。
こっちの世界じゃ、ないのかなぁ。
目的地も決まり、町で準備を整え砂漠へと出発。
ダンジョン復活の話は瞬く間に広がったようで、ディサイドの町は活気づいていた。
冒険者の姿は、俺たちが町に到着したときと数はそう変わらない。戻って来るのはこれからだろう。
それでも町の人々には笑顔が浮かび、安堵感のようなものも感じられる。
「いいことしたなぁ、俺たち」
「ウーク偉いねぇ」
「ふっふっふ。ま、まだ一カ所目だ。早い所全部を戻さないとな。いや、早く戻してしまったら、俺の自由時間もあっさり終わってしまうのか?」
まぁ任務が完了したからって、直ぐに島に帰らなきゃいけない訳じゃないけど。
とはいえ、ダンジョンの調査隊が引き上げるのを待つ必要も今後でてくるだろうし、直ぐに終えられる感じでもなくなった。
ま、それはそれで冒険者を満喫できるんだけどさ!
砂漠越えは流石に時間もかかって、五日掛ってレゾルの町へと到着。
町から徒歩三十分の、砂漠の真っただ中にダンジョンはある。
さすがにこのまま特攻する気にもならないので、宿を取ってそれからギルドに行って、一晩ゆっくり休んでそれからだ。
「シア、宿探すぞ」
「あぃぃ」
「やっぱ元気ないな……大丈夫か?」
「うん。暑い゛だげぇ」
暑そうだ。俺も暑いよ。
適当に小綺麗な宿を見つけて部屋を確保。すると宿屋の主人がこんなことを言っていた。
「一昨日ぐらいから冒険者が戻って来ているような気がするんだが、何かあったのかね?」
「冒険者が戻って来ている?」
「お前さん方も冒険者だろ?」
「え、えぇまぁ。俺たちはコアが壊れて死んだダンジョンの調査をしたいな~と思って来たんですけど」
宿の主人によると、昨日一昨日で宿を借りる冒険者が数組来たと。
それ以前の宿泊客に冒険者はゼロ。
売り上げも激減して、宿をたたむことも考えていたという。
既にこの町では、冒険者相手に商売をしていた店が何件か閉店してしまったそうな。
「なんでもいい。客が戻って来るならこれ以上有難いことはない」
「そ、そうなるといいですね」
「あぁ、そうなって欲しいものだ」
宿の親父さんの陽に焼けた顔に笑みが浮かぶと、早くダンジョンを復活させてやらなきゃなって思う。
「シア、さっそくギルドに行くぞ」
「おぉー!」
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