第165話:キャラバン

 山を下って野宿して、また歩いて日暮れ前に町へと到着した。

 んで、乗合馬車の出発時刻とかちゃんと確認してから宿を探そうと思ったんだけども……


「え……次の馬車は十日後?」

「あぁ。利用客が減ってなぁ。それで便を減らしたのさ」

「な、なんで!?」


 乗り場の職員は俺たちを見て、「あんた冒険者かい?」と尋ねてくる。

 確かに今の恰好はラフだけど、最低限の装備はしてある。

 まぁラフといってもボスの毛を編み込んだベストを着こんでいるから、その辺の全身フルアーマーより防御力高いけどね!

 あとリュックの中には、ブレッドのおっちゃんに加工して貰った、ゴン蔵鱗シールドも入ってるし。


「今ディトランダじゃあ、ダンジョンの核が次々に壊されちまって、そっちへ行く冒険者が激減してんのさ」

「あ、あぁ……それで客が……」

「逆にあっちから他の国に出て行こうとする冒険者は増えたがね」


 冒険者は国民として数えたりはしない。

 だけど定期便に影響が出るぐらいに、人の流れが変わってしまっているのか。


 こりゃ遊んでないで、早いところ復活させてやらないとダンジョン産素材云々以外でも国益に関わってくるなぁ。


「なぁおじさん。馬車を一台貸し切るからさ、俺たちをディトランダまで乗せて貰えないか?」

「貸切るだぁ? ディトランダまで、普通ならひとり往復で大銀貨一枚だ。それを貸し切るってんなら、馬車一大で金貨六枚は貰わねーとな」

「き、金貨六枚!? え、いや片道でいいんだけど」

「馬鹿野郎! 片道だと御者が帰って来るのにタダ働きになるじゃねーかっ」


 ぐっ、その通りです。

 しかし金貨かぁ。

 大銀貨が500ローで、日本円換算で五万だったよな。大銀貨二枚で金貨一枚だから──馬車一台でだいたい十二人乗りか。

 いや、もうちょっと小型の馬車でいいんだけど……。


 貸し切りで金貨六枚かぁ。

 いや、出せなくはないよ? だって俺、領主だし。持ってるよ?

 でも無駄使いみたいで、なんか嫌だなぁ。


 うんうんと唸っていると、「もし?」と声を掛けられた。


「もし、ディトランダまで行かれるのでしたら、ご一緒しますか?」

「え?」


 声を掛けて来たのは恰幅のいい中年の男の人で、見るからに商人風だ。

 シアがそれほど警戒していないところを見ると、悪い人間の臭いではないのだろう。


「わたし、ネドリアと申します。キャラバン隊を率いる者でして」

「キャラバンですか」

「はい。各地から食料や生活雑貨を仕入れ、それをディトランダで売るという商売をしていまして」


 こういう商人がディトランダの食糧事情を支えているんだろうな。

 で、このキャラバンなのだが、実は少し困っているそうな。


「そこの方も仰っていましたが、今ディトランダ王国では冒険者が次々に国外へと流れておりまして」

「ダンジョンが使えなくなれば、冒険者の稼ぎもなくなるし仕方ないのかもしれないですね」

「えぇ。当然ながら、あの国へ渡ろうとする冒険者も極端に減っておりまして」


 ギルドで護衛の依頼を出したが、以前よりもその依頼料がぐんと跳ね上がったそうで。


「こうなると向こうで商売をする際に、相場を上乗せしなければなりませんので」

「あの国は今大変な時期ですし、価格が高騰するのは国民にとっても厳しいでしょうね」

「はい。ですので……もしよろしければ、我々のキャラバンに加わって頂けないでしょうか? 三食と、夜は見張りをしていただきますが、お休みの際には快適な寝台をご用意できます」

「え、マジですか!?」

「その代わりと言っては何ですが、モンスターや盗賊からの護衛はもちろんですが……その……」


 と、なんとも気まずそうな顔をする。

 つまりタダ働きして欲しいってことだろ?

 まぁそれはいいよ。飯代が浮くなら、それで十分だ。


「いいですよ、タダ働きで」

「え? タ、タダ……そ、そうですか! それはとてもありがたいですっ」


 あれ?

 もしかして違った?


 俺たちの他に五人ほどの冒険者がいて、聞けば全員ディトランダに仕方なく行かなきゃならない用事があって──というメンバーばかり。

 そして食事と寝床、そして日当30ロー、大銅貨三枚で護衛を引き受けたと聞いた。


 ふへ、ふへへへ。

 ま、まぁいいさ。タダ働きだっていいさ。


「ディトランダまで馬車で行けるなら、それでいいよな!」

「ウーク、悲しいことあったぉ?」

「ない! 断じてないぞ!」

「ウーク、よしよし」


 俺泣いてないからな!






 翌朝、陽が昇る前にキャラバンは出発した。

 このホプスツェント国はまだ緑の多い国だけど、北へ進むにつれ段々と様変わりしてくる。

 出発して二日もすると、草木の数も減って荒野っぽくなってきた。


 街道を通っているのでそれほどモンスターと遭遇することもなかったが、夜は流石にちょいちょいと出てくる。


 雇われた冒険者とキャラバン隊で戦える者とを含めて十五人ほど。


「いつもならもう少し冒険者を雇って、二十人ぐらいなんだけどなぁ」


 と、キャラバンの人が言う。

 それだけディトランダに向かおうっていう冒険者が少ない証拠だ。

 

「五人一組で三交代だ。そっちの若いの二人は、得意武器はなんだ?」


 と、俺とシアが尋ねられる。

 得意武器か……。


「石」

「シアは爪ぇー」


 ……。

 ……。


 え。

 なんか全員の視線が痛いんですけど?



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