第157話:物凄くドキっとした

 露天風呂付温泉銭湯が完成したのは、四の月の終わり。

 島の雪もすっかり溶け、ぽかぽか陽気の日も日ごと増え始めた頃だった。


 男女で二棟にするつもりだった小屋は、あとから増築してコの字にして繋げた。

 増築部分はリラクゼーションルームみたいにして、風呂上がりに寛げるように。もちろん飲み物や軽食を提供できるカウンターも用意。

 既にそこで働いてくれる人も見つけてある。


「ご領主様。本当にタダで入ってええんですかの?」

「あぁ。温泉に入るのはタダだ。だけど飲み食いは働いている人もいるし、そこはお金を払って貰うからね」

「そりゃあもうっ。ありがとうございますだ」


 入館料、どうしようかと思ったけどタダにした。

 で、代わりに風呂の掃除を当番制に。

 島民全員じゃない。利用者内で交代制にすることで不満も出なかった。


 だから当然──


「じゃあ最初の掃除当番は俺からだ! 午前中のうちに掃除をするから、温泉の利用は午後からだぞ」


 と宣言をする。

 さすがに24時間利用可能には出来ないもんな。


「領主が掃除当番をするなんて、聞いたことがないべな」

「ほんと、ルーク様は働き者だぁ」

「まだお若いのになぁ」


 はっはっは。もっと褒めてくれ。

 確かに俺は貴族らしくないさ。でも……


 前世ではブラック企業だったし、今世でも4歳から屋敷でコキ使われてきたし。

 身も心もじっとしていられない、働いてないを休まらなくなってんだよ!

 もう完全に社畜ですね。


 でも楽しいからいいんだ。

 島で働くことは、誰かに命令されてとかじゃないから。

 自分がやりたくてやっていることだから、楽しいんだ。






「悪いなシア、手伝って貰って」

「いいぉ」

「そういやお前、昨日は温泉に入ったのか?」


 翌日、さっそく俺は掃除当番を決行。しかし浅はかだった。

 

 建物内の風呂は三つ。大きな物を一つどーんっと作ると、温くなりやすい。なので3~4人がゆっくり入れるようなサイズのものを男女それぞれ三つずつ作った。

 露天風呂は二つずつ。計十個の浴槽がある。

 洗うのは浴槽だけじゃない。


 床はコンクリートの上に、タイルっぽく錬成した石を並べてある。

 そこはブラシで擦らなきゃ、ぬるぬるになるだろう。

 さらに脱衣所もだ。

 唯一リラクゼーションルームは、お店を出している人たちがやってくれる。


 掃除当番なんてひとりでするもんじゃない。

 シアが手伝ってくれなきゃ、午前中で絶対終わらなかっただろう。

 彼女は昨晩、温泉を利用していないのに手伝ってくれて、感謝のしようもなかった。


「んー、シアねぇ……ランタン臭いし温泉熱いの」

「ランタン……魔石ランタンか。そうか、すっかり忘れていた」


 シアも一応モンスターみたいなものだったんだ。

 今は魔石節約のために火を焚いていない。

 だが利用者がいる時間からは魔石ランタンを使っている。

 みんな裸だし、もし襲われたら大変だもんな。


「そっか。ごめんなシア。……そうだ! ゴン蔵が入ってた海岸の岩風呂。あそこならランタンもないし、なんならお湯も温いはずだ」

「おぉ! シア夜になったら行くぅ。ウークも行く?」

「え……」


 いや、行ってどうすんだ。一緒に入るとか言い出すなよ。昔の……子供の姿の時とは違うんだから。


「ウーク、シアと温泉はうぅー!」

「言いやがったよこいつ! だから年頃の女の子が、異性に裸を見せようとするんじゃありません!!」

「うがうぅ。じゃあじゃあ、水着着ればいいおぉ」


 温泉を水着で……何て邪道な!

 地球でもそういう外国人はいるみたいだけどさぁ。


 うぅん。


「おっそうじ♪ おっそうじ♪ ウークと一緒におっそうじ、おっふろー」


 シアの中ではすっかり決定事項になったらしい。

 はぁ……水着ならいいかぁ。


 なんとかギリギリで掃除を終わらせ、少し遅めの昼食を摂る。

 掃除当番は最低でも四人にしよう。


 その夜……


 もうすぐ五月とはいえ、海パン一枚は非常に寒い。

 そんな恰好で岩場に立つ俺。


「おんせーん!」


 あちらは寒くても元気なシアさんです。

 温泉ように新しい水着を錬成してくれと頼まれ、彼女がどこからか持って来た誰かの下着をモデルにしました。

 どっから持って来たんだよ……。


 つまり錬成したのはブラとパンツのビキニ。

 露出部分が多い。けしからん。


「ウーク、はいろぉ」

「お、おう……あ、やっぱ温い」


 先客だったゴン蔵が『茹で上がらないように温くしてやったぞ』と言って、ゴン太と一緒に山へ帰った。

 ブレスで温くしていたのだろう。本当に温い。

 だけどシアは気持ちよさそうにしている。


 ここはゴン蔵がゆったり入っていただけに、かなり広い。そして深い。

 いや、これ絶対あいつが岩を破壊して深くしてるだろ? 足届かないし!


「んふぅ。気持ちいいねぇ」

「ん……そうだな」


 ちょっと温いけど。


 二人で岩の縁に掴まって、月明かりに照らされた海を眺める。


 ふと、シアの肩が触れた。

 それだけだ。

 それだけだが、物凄くドキっとした。






******************************************************

ちょっと忙しくなってきました。

い、いえ、煉獄さんにいつつをぬかしていたとかそういう訳じゃあるんですよ?

そ、そうじゃなくてですね、書籍化に向けた改稿作業に入りまして。

うつつを抜かしていたこともあって、書き溜めが増えておりません。

ドーン!


暫く更新を、火曜日・土曜日・日曜日の週3にいたします。

もしかするとまだ少なくなる可能性もあります。

今執筆中のところで頭の中がうまくまとまらないもので。

(たぶん煉獄さんのせい)

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