第131話:イカチビーズ
「エアリス姫様。申し訳ありませんが、今回は──」
「分かっています、ルーク様。わたくしが王都に一緒に行かねば、みなさまが肩身の狭い思いをしますものね」
「すみません、お願いします」
内心ちょっと意外だなと思った。
いつもなら「わたくしも行きます!」って騒ぐところなのに。
姫も一つ年を取って、大人になったのだろうか。
エアリス姫は島民と一緒に王都へと避難した。
島に残った騎士団と、何故かドワーフたち。
「もしものときは、直ぐに俺らが復興に取り掛かるから心配すんな」
「わしらドワーフは夜目が利く。事が済んでも、直ぐには安心できまい。暗い中でも動けるわしらが役に立つだろう」
「そういうことですか。とりあえずみんなと一緒に、山の上に避難していてください」
グレッドともうひとりのドワーフは、騎士団と一緒に山へと上った。
俺はゴン蔵に連れられ海岸へと向かう。
「シア、本当に一緒に来るのか?」
「うん!」
「まぁ、今回はシアの魔法も必要になる場面もありそうだしな」
「えへへ。シアがウーク守ってあげう」
へいへい。まったく、数カ月年上ってだけで、すぐお姉さん面するんだからなぁ。
島の南の海岸に行くと、ク美の姿はまだなく。代わりにチビたちがいた。
いや、もうチビなんて呼べるサイズじゃないな。
栄養の状態からケン助が小さかったが、今はその差はほとんどない。
胴の部分も俺の身長ほどもあって、そこから腕が伸びているんだから、完全に大王イカだよ。
『ルークしゃん。ぽくたちも手伝うでしゅ』
『て、手伝ってあげるでちゅ』
大きくなっても、この舌足らずな口調は変わらないな。
いや、手伝うってなにを?
『ルークしゃん、海の上にいくでしょ?』
「あぁ。海面を凍らせて、そこを全力で走ってブレス石を投げようかと」
『お主……なかなかに力技を使おうとしとるのぉ』
毎日畑で足腰鍛えているから、結構早いんだぜ?
『氷の上、じょうじゅに走れるんでちゅか?』
「お、ケン助君。言ってくれるじゃあないか。ふふ、見てろ! ゴン蔵、氷っ」
『ドラゴン使いの荒い奴め』
そうは言ったが、ゴン蔵は海に向かってブレスを吐いた。
海の上に氷で出来た道が一本出来上がり。
「行くぜ!」
砂浜を蹴って氷の上に。そのまま走って走って走って海に落ちた。
「ぼががぁ、なんぶぇー」
『やれやれでしゅ』
『ダメでちゅね』
「ウーク、カッコわうい」
クラ助ケン助に引っ張り上げられた俺は、海岸に戻って服を着替えた。
ふ。こんなこともあろうかと用意していたのさ。
『主よ、大人しく氷の上でじっとしておれ』
「いや、それだと付与石を遠くまで投げられないじゃないか」
『しかし思いっきり滑っておっただろ』
ぐぅー。
『そこでぽくらでしゅ!』
『ルーク船に乗るでちゅ!』
「船?」
『ぽくらが船を引っ張ってあげるでしゅよ』
「お前らが?」
『はい。この子たちを連れて行ってやってください。二人とも、この島の為に何かしたいと必死にお願いしてきたので』
「クラ助、ケン助……」
「二人にも防御魔法を掛けておきますので、大丈夫です』
戻って来たク美にそう言われては、ダメだとは言えないな。
まぁク美が全力で防御魔法を掛けるのなら大丈夫か。
だが船を引っ張ると言っても、そんなに速度でないだろ?
それならむしろ、海上を凍らせて小舟をソリのようにして走らせた方が──
船をソリ……いけるかも?
思いついたことをすぐさま砂浜に絵にして描く。
「クラ助ケン助に船を引っ張って貰う。ただし氷の上をだ。いや二人は氷の上を泳ぐわけじゃないし」
二人が泳ぐために海は必要だ。
でも船は氷の上じゃないと早く滑らないし……。
なら。氷を線路のように、細く長い物を二本用意すれば!?
でもそれだと、氷がグラグラするなぁ。
「ウーク、なにしてう?」
「んー。船は氷の上で、二人にそれを引っ張って貰うにはどうしたらいいかなーと思って」
「ふぅーん」
絵を見ていたシアが、落ちていた枝を持って手を加える。
それは氷でできた巨大なプール。
ただし水が蓄えられる幅は狭く、そこに船をすっぽり入れるようだ。
「なるほど。線路を浮かせるんじゃなく、巨大な氷のブロックに細長い溝を掘って水を流すのか。いや、そこだけ溶かせばいいんだな」
「うんうん」
『で、それを作るの──我じゃろ?』
言わなくても分かってるじゃん。
俺とシアがきらっきらの目で見つめると、ゴン蔵は諦めたように大きなため息を吐いた。
それはすぐに実行され、俺はトリスタン島と火山島の間で防衛線を張ることに。
氷を溶かすのは付与武器を使う。
ロイスの炎の魔法を付与した石と、国王から賜った剣を箱の中へ。
付与すれば、燃え盛る炎のように輝く刀身の剣が出来上がりっと。
ゴン蔵がブレスで凍らせた、厚さ数メートルの氷。
表面に剣を近づければ、熱でそれが溶けていく。
ゴン蔵が一緒に運んでくれた小舟を置いて、溝の幅を調節っと。
船がすっぽり嵌ってはいけない。船体が氷に触れて、つるーんっと滑ってくれなきゃな。
更に深さも必要だ。二人はいまや大きくなったもんな。
で、溶かしていると結局──
「貫通してしまった」
「あう」
『まぁそれでもよかろうて。割れないよう、周りをもう少し固めておこう』
ま、いいか。
試運転したところ、
「ぎゃああぁぁぁーっ!」
「あはははははは。早いお、早いおー」
二本のロープに引っ張られた船は、モーターエンジン搭載の船も真っ青じゃね?
っという速さで氷の上を爆走した。
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