第119話:閑話-祝い2
『ルークエインよ。我の背中に乗るがいい』
「は? なんだよ急に」
その日のお昼過ぎに、ゴン蔵様が計画通りにルークエイン様を連れ出さしてくださった。
ゴン蔵様は訳も分からず首を捻るルークエイン様を鷲掴みして飛び立つと、そのまま南の空へと消えた。
どこまで連れて行ってしまうのか、少し心配ですが……。
「よし、ではまずは屋敷の者を集まるとしよう」
わたしが手をパンパンと打ち鳴らすと、それを聞きつけた侍女たちがやって来た。
彼女らが他の侍女、そして屋敷に駐在する騎士たちを呼びに行く。私も厨房に向かって料理人と、庭の手入れをしている者たちに声を掛けた。
食堂に集まった者たちに、
「三日後、ルークエイン様の誕生日祝いのパーティーを開きます」
そう伝えた。
ここにいる侍女も料理人も庭師も、以前からローンバーグ家に仕えていた者たちだ。
しかしルークエイン様がお生まれになった時からいる者は半数ほどしかいない。
はっと気づく者、首を傾げる者も半々だ。
「それはおめでたいことですが、何故こんなギリギリになって」
と、トロンスタ王国から派遣された騎士殿が言う。
「それについてはその……訳がございまして。いえ、理由があったとて、主の生まれを忘れていたことに違いはございません」
「ジョバンさんが悪いんじゃありません。私も長年勤めていたのに、すっかり忘れてしまっていたのですから」
「えぇーっと、どういうことで?」
首を傾げる騎士殿や、ルークエイン様がお生まれになった後から雇われた者たちにも事情を説明した。
あとから生まれたエンディンを長男に据えるため、ルークエイン様の出産届けが二カ月遅れて提出されたこと。
ローンバーグ家ではエンディンが十の月生まれで、ルークエイン様は十一の月生まれだとされていたこと。
「しかし本来ルークエイン様は、九の月の末日にお生まれになったのですよ」
「はぁ……子供の生まれた日を誤魔化すとは……」
「そんなことがあったなんて……ルーク様と一緒に過ごしていたのに、全然気づきませんでした」
「そういう訳なのですが、今年からは誰の目も気にせず、あの方の正しい誕生日にお祝いが出来るようになったのですよ」
しかし気づくのが遅すぎました。収穫で忙しいというのもありましたが、それはいい訳にしか過ぎません。
「料理のほうはなんとかなりますよ、ジョバンさん。収穫したての果物や野菜もあるし」
「肉はどうしましょう、料理長」
「そこは冒険者殿に依頼しましょう。あと魚はク美様にお願いすればなんとかなるやもしれません」
それから騎士殿にはこのことを島民に知らせて貰い、会場設営を手伝って貰いましょう。
「まぁ、ルーク様の!?」
「ウーク誕生日? シアと同じ十六歳になうねぇ」
「あら、シアの方が年上だったのですね。ふふ、ルーク様はきっと、年下の方が好みですわ」
「そんなことないもんっ」
「ま、まぁまぁ……お、お二人にも手伝って頂きたいのですが」
ルークエイン様のこととなると、直ぐに火花を散らすお二人ですねぇ。
そんなお二人ですが、わたしの言葉に二人揃って、
「「もちろん」」
と元気よくお答えしてくださった。
お二人にやって頂きたいことは──
◆その頃のゴン蔵
「おいゴン蔵、ここどこだよ……まだ収穫が残ってるんだ、島に戻ってくれよ」
『我疲れたし。この島で少し休んでからだ』
「休んでって……はぁ……」
トリスタン島から少し南に飛んでみたが、ここの無人島のようだの。
まぁあの島と違って、過去に人間が住んでいたという形跡もない。
『しかしちっさい島だのぉ』
「お前が寝っ転がったら、尻尾がはみ出してしまうぐらい小さい島だな」
『潮の満ち引き次第では沈んでしまいそうだ。それと……』
「それと?」
ごろんと寝そべった地面が、どことなく温かく感じる。しかも脈打っているかのようにも。
うぅむ、氷竜としての勘が告げておるな。
ここは我にとって良くない場所であると。
『よし、移動するぞ』
「移動? 島に戻るのか?」
『いや、まだだ。まだ戻れぬ』
執事との約束だ。夕方までルークエインを島から遠ざけてくれと言うな。
『さぁルークエインよ。島の領主たるもの、周辺の地図をしっかり頭に入れねばなるまい』
「地図って言っても、周りは海ばっかりじゃないか」
『なーにを言っておる。島の近くにこんな無人島があったなんて、主は知らなかっただろう』
「ここまで船で何時間かかると思ってんだ!」
半日はかかるであろうな。
ふははははは。
『さぁ行くぞ! 今度は北東の海である!』
「ぎゃあぁーっ! 加減して飛びやがれえぇぇぇーっ」
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