第79話:ズモモもモモも

「よぉし、こんなもんでいいかな?」

『ズモモモモモォ~』


 モズラカイコたちは喜んでくれたようだ。


『どうせなら全部引っこ抜けば良かったのではないか?』

「いや。あっちはあっちで、必要としている奴らもいるだろうしな。ありがとうゴン蔵」


 それに──だ。

 種があればいくらでも増やせる。


「モズラカイコ。このドドリアンの種は取っておいてくれないか? 種を芽吹かせて、新しい苗木を育てるからさ」

『ズモ』

『了解したと言っておるぞ』


 ゴン蔵がいると中間の通訳が必要ないから楽でいい。


『ズモ、ズモモモ』

『糸はいらんのかと言っているが、どうなんだ?』

「昨日貰ったし、今日はいいよ。いったん網に錬成してから、足りるかどうか考える」

『ズモモモォ~』


 ふわふわと飛んでいき、ドドリアンの木へと向かった。

 近くに川もある。モズラカイコたちは大きな葉を使って、水を汲んで木に掛けるのだという。

 いやぁ、それじゃあちょっと面倒くさいだろう。


「待ってろ。ジョーロを作ってやるからさ。ゴン蔵、悪いんだけどそこの木を箱に入る程度で切ってくれないか?」


 ドドリアンを植林するのに、邪魔な木を何十本か抜いてある。あとで木材に加工する用だ。

 その中から『錬金BOX』に入るだけの木をゴン蔵に切って貰い、箱に入れて錬成する。

 ちょっと大きめの、50センチぐらいの木製ジョーロの完成だ。


「中に水を入れるだろ。あぁ、実際に入れてくるから待っててくれ」


 川まで行って水を汲み、また戻って来る。


「それでな、こうしてジョーロを傾けると──ほら、水が出る」

『ズモモォ!』

「だばーっと出ないから、苗木育てるのにもいいと思うぞ」

『ズモッ』


 モズラカイコが頷き、ジョーロを受け取った。

 ジョーロは全部で二十個錬成し、ついでに片付けるための木製の箱も作ってやった。

 

「よし、これでオッケーっと。さぁて、俺は町に戻って網の錬成をするかねぇ」

『では我は冒険者どもと遊んでやるとするか』

「はは……手加減してやってくれよ」


 そうだ。冒険者にモズラカイコを倒さないでくれって頼まなきゃな。

 討伐対象リストでも作るか。話し合いが通じる相手なら、倒す必要はないのかもしれない。


 モンスターって……いつから倒すべき存在だって決めつけられたんだろうな。






 養殖場用の定置網が完成したのは、五度目の糸を貰ってからだった。


「えぇー、では。一辺が100メートルで、深さは10メートルですわね」

「ちゃんとあるぞーっ」


 冒険者にも手伝って貰って、網の長さをチェック。

 全部を一度に錬成できないから、小分けで錬成したものを繋げた網だ。

 はぁ、やぁーっと完成したかぁ。


「お疲れ様です、ルーク様」

「お疲れぇ、ウーク」

「ありがとう。じゃあシア。定置網を設置するの──手伝って貰おうか?」

「う、うにゅ!?」


 長さをチェックして貰っている間に錬成したガラスのヘルメット。

 上にはゴムチューブを取り付けられるように突起も用意した。ここから酸素を取り入れる。


「これを被ってな」

「あわ……・あわわ」

「これを持って海に潜るんだ」

「あわわわわわわわわわっ」

「大丈夫。俺もいるから」


 ぽんっと頭を叩いて撫でてやるが、いつもなら気持ちよさそうにするこれも、今日はダメみたいだ。

 耳は伏せてるし、尻尾もしゅんとしてプルプル震えている。


 ダメかな~と思ってエアリス姫を見ると、彼女は微笑みながら俺から一歩離れた。


「よぉし、網を運ぶの手伝ってくれー」

「了解しやしたご領主。特別報酬は──」

「出ないぞー」


 途端に元気がなくなる冒険者たち。ほんっと、君らお金なんだな!

 海へと到着すると、浜辺ではボリスとゴン太、そしてクラ助が遊んでいた。

 すぐに俺たちに気づいて駆けてくる。やっぱりイカのクラ助が一番遅い。

 っていうかあいつ、陸で普通に活動してるってなんでだよ!


『ルーク、何するの?』

『ンペー』

『遊ぶでしゅか?』

「いや、今から魚の養殖場所を作るんだ」

『『おぉー!』』『ペー』


 船着き場から200メートルほど南下した海岸に、あらかじめ岩ブロックの桟橋を作っておいた。

 船の荷運びようじゃないので、横幅は1メートル程度だ。

 その桟橋に定置網を固定して、あとは四角くなるように沈めていく。


「というわけで、綺麗に沈めるために潜らなきゃダメなんだよ」

「あぅ、あうぅぅ」

「ルーク様。ク美様やクラ助にお願いできませんの?」

「まずク美じゃこの網を上手くつかめないでしょう。クラ助の場合は、誤って本人が絡まったら大変です」


 だから人の手でないとダメだ。


「ふぅ、分かったよシア。俺がひとりで行くから大丈夫。桟橋から網を少しずつ送り出してくれ」

「ウ、ウーク……」

「海に入れるようなったが、浮き輪で浮くのと潜るのとでは随分違うもんな」


 がしがしと頭を撫でてやってから、俺は網を乗せた小舟に乗り込んだ。

 船乗りがそれをこ──


「シアも行く!」

「え?」


 ガラスヘルメットを小脇に抱えたシアが、桟橋からジャンプして飛び込んで来た。

 慌ててそれをキャッチしてバリンという音が聞こえ──


「お手伝いするっ。ウークと約束したもんっ。シア、頑張う!」

「そうか。ありがとうなシア。けど……」


 俺たちの足元には、粉々に砕けたガラスの破片があった。

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