第48話

 石を投げる──フリをする。

 奴が地面に潜る。

 潜ったら飛び出してくるタイミングをシアが教えてくれる(突き飛ばしてくれる)。

 奴が出てきたところで『アイス・ストーン』を投げる。


 これがなかなかいい具合に成功。

 奴も知恵を付けてなんとか『飛び出すフリ』をしようとする動きを見せていたが、耳の良いシアにフェイクは通じない。

 直撃を何十発も食らって、奴ももうバテバテだ。

 

「そろそろだ……あぁっ!? 『アイス・ストーン』がもうないっ」

「えぇ!?」

『ぎゅるるっ!』


 え、あいつ人間の言葉が分かるのか?

 今物凄くやる気に満ちた声を出したような……。


 奴のトゲトゲが朱色に光る。


「おぉぉ、なんかマズそうなのが来るぞぉぉ」


 ゲームでよくあるパターンだ。瀕死状態になると開始する特殊攻撃。

 必ず攻撃前にパターン化された動作がある。

 異世界のモンスターもその傾向があるようだ。


 その証拠に奴の皮膚を覆うトゲトゲが発射された。


「シアアァァァッ!」


 今度は俺がシアを突き飛ばして地面に蹲る。

 ぐっ。い、一発食らった……くそっ。


「ウーク!?」

「大丈夫だ。当たったのは足……うげっ」


 足なら平気だと言おうとして、平気じゃない状態を見てしまった。

 左足の太ももに、大根ほどもある朱色のトゲが刺さってるじゃないかっ。

 あぁーっ。見るんじゃなかったぁーっ。


「ウークッ。ポーション、ポーションッ」

「あ、あぁそうだな。ポーションを──シア!」


 気配を察して再び彼女を突き飛ばした。

 パリンと音がして、シアが手にしたポーションが割れる。


「う……ぐぅっ」


 ぐにゅりとした感触が胴に巻きつく。奴の尾だ。いや尻?

 くっそ。俺の体を締め上げようってのか!?


「れ"錬金BOX"。シ、シア──石……それから──」


 氷の結晶──そう言おうとしたが、声が出ない。

 ギリリと締め付けがきつくなり、呼吸もままならない。

 くそっ。くそっ。くそっ。


「ううぅぅぅぅっ。ウークはシアが助ける。ウークはシアがあぁぁぁっ!」


 シアの体が白い霧に包まれた?

 俺の目が霞んで来たのか……せめてシアは……シアは逃げろ……逃げてく……。


「うおおぉぉぉぉぉぉーんっ!」


 霞みが晴れた!?

 なんで銀色のふわっふわした毛並みの狼がいるんだよおい!


 シアは?

 シアはどこに行った? この狼はどこから湧いた!?


「がるるぅぅぅっ。シアが助けゆ!」


 銀色の狼がそう言ってミミズに飛びかかった。


「があぁぁっ」


 爪がミミズの皮膚を切り裂く。が、同時に傷口が凍結した。


「シ……ア……なのか?」

「ウーク! がんばゆっ。すぅー……」

「シ、シア。頑張るんだな。分かった。頑張ろう!」


 深呼吸は氷を吐き出す前動作。

 ミミズの尾に捕まったまま、なんとか『錬金BOX』を呼び出す。石は──手持ちの石を使おう。

 なんでもいい、適当に入れて──シアに向かって構えた。


「"ダイヤモンド・フリーズ"!」

「え、魔法!?」


 シアが魔法を唱えた。

 狼と化した彼女の口から、冷凍ビームのような光が発射される。

 箱でそれを受け止め、直ぐに蓋をする。

 同時にシアが飛び込んできて、俺の体を締め付ける尾に爪を立てた。


 カチンっと凍る。

 凍った尾にシアが体当たりをして、砕けた。


「かはっ……くっそ。あばらが何本かやられたんじゃないか。めちゃくちゃ痛いんですけど」

「ウークッ」

「分かってる! 気合だ気合いぃーっ」


 激痛に堪えながら奴から離れ、もつれた足に転がりながらも箱の中身を掴んだ。

 そして投げた。

 奴の足元に向かって。


「何度も逃げられてるからなぁ。まずは潜れないようにしてやる!」


 言いながら二投目。その時には一投目が地面に潜ろうとしたその土を凍らせる。同時にギャンッと巨大な氷の針が地面からニョッキした。

 あの形……ボスの『ニードルクエイク』か!?


 二投目が奴の胴にヒットし、体の半分が凍り付く。そこに地面から氷の針がズガガッと生え──


 奴の胴を真っ二つにした。


 それでもなお動こうとするミミズの頭は、シアの冷凍ビームが命中。


「ウーク!」

「任せろっ」


 投げたのは『ニードルクエイク・ストーン』。

 氷の彫刻のようにカチンコチンになったミミズの頭を、岩の針が貫いた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る