第23話


「ボスーッ。ロープを落としてくれぇー」

『ンベェ~』


 シアが言うには、ハンナが落ちた穴からの移動のほうが早く地下階段にたどり着けそうだという。

 ボスにロープを咥えて貰って下りると、そのロープは落として貰った。


「じゃあ行ってくるーっ。十日ぐらいは帰ってこれないだろうから、人参は節約して食べるんだぞーっ」

『ンベェェ~』

「よし、じゃあ行くかシア」

「あいっ。こっち」


 シアは鼻を利かせ進んで行く。曰く、こことは微妙に違う匂いが流れてくる方角があると。

 

「お、本当に下り階段があった」

「おぉーっ」


 モンスターもいないので楽に進めるし、なんなら駆け足したらその日のうちに地下二階まで到着した。


「じゃあ飯の準備をしようか」

「うぁい」

「"錬金BOX"──はぁ、便利だよなこれ。重いもの運ぶのにも役立つし」


 箱に何かを入れたまま体から離すと、シュっと消える。再び呼び出しても、箱の中身はそのままだ。

 今回は水を入れた木製の水筒いっぱいとざく切りキャベツ、塩、じゃがいもを目いっぱい入れてきた。トウモコロシの粉とフライパンは背負い袋に入れ、直接背負って来ている。


「二人だけでよかったな。大人数だとさすがの『錬金BOX』も、人数分の水を運ぶだけで限界だし。こういう時、アイテムボックスとかあればいいんだけどなぁ」

「アイエムボックス?」

「ア・イ・テ・ム。簡単に言うと、小さな鞄中が異次元空間に繋がってて、無限にアイテムを入れられるってやつさ」

「うぅー?」


 首を傾げるシアは、アイテムボックスのことを知らないようだ。

 一応この世界にもアイテムバッグという魔法道具はある。これも本で読んだ知識だが、ダンジョンモンスターからドロップする超レアアイテムだとも書かれていた。


「明日からもガンガン進んで行くぞ! 食料は十日分しかないからな。帰りのことも考えたら、あと四日進んで最下層に到着できなかったら、諦めて引き返すしかない」

「あむっ。むぐむぐむぐ」

「宝箱が見つかるといいなぁ」


 TVゲームのように、この世界のダンジョンにも宝箱がある。もちろんミミックの可能性も。

 宝箱はダンジョンが死んでも、残っているんだろうか?

 それともやっぱり消える?


 その答えは出なかったが、五日目の昼過ぎに、早くも最下層の最深部へと到着した。

 ここが何故最下層の最深部と分かるのか。

 それはこの場所に玉座と、その背後に何かを置くための台座があったからだ。


「最深部だ……」

「あう」

「お宝はお目に掛かれなかったな」

「あうぅ」

「ま、来てみたかったんだ。よしとしよう」

「あいっ」


 でもせっかくだから最深部の探検はしておこう。

 広さは体育館ほどあって、天井は6、7メートルほどある。

 おかしいな。ここは地下七階だが、六階から七階の階段は他の階と同じ長さだったはずだ。6メートルも下りた気がしない。


 ダンジョンは地上とは別空間に存在する。

 そんな研究論文が本になり、それも見たが……その通りなのかもしれないな。


「あおっ! ウークッ。ウークお宝ぁ」

「何!? ど、どこだ?」


 目をキラキラ輝かせたシアの下に駆け寄ると、彼女は不思議な輝きを放つ石を持っていた。

 いや、元は丸い玉のようなものだったのだろう。同じ輝きを放ついくつかの石が地面にある。

 宝石かなぁ。割れてるけど、大きいからこれだけでも相当な価値になるだろう。


「せっかくだし、箱で合成して持ち帰るか」

「おぉーっ」


 欠片を拾って『錬金BOX』へと入れる。蓋をすると【ダンジョンの核の欠片】と四回声が聞こえた。


「うぉっ。こ、これ、ダンジョンの核らしいぞ!」

「うおっ!?」

「へぇ、ここに捨てられたままだったのか。よし、合成しよう。きっと綺麗だぞぉ」

「うおぉ~ん」


 壊れたものを直すのは、この『錬金BOX』では簡単なこと。

 あっという間に箱の中には、エメラルドグリーンの輝きを放つ丸い球があった。核の中心から放射線状に七色の光りが放たれている。


「綺麗だなぁ」

「うぉぉ」

「これ、宿に飾っとこうぜ」

「あいっ」


 球をよく見ようと箱から取り出した時──


 地面が揺れた。

 そして握っていたはずの球が宙に浮き、スィーっとどこかへ飛んでいく。


「お、おいっ。どこ行くんだよ!」


 台座だ。

 玉座の後ろにある台座に飛んで行って、そして嵌った。

 

 大きくなる揺れ。

 同時に、何か禍々しい気配を感じる。


「う……ぅあ……」


 シアが俺の頭上を見つめ、怯えた。


 あぁ、振り向きたくない。振り向きたくないが、振り向かなきゃその正体も分からない。

 目を閉じてから後ろを振り向き、そして気合と共に目を開けた。


 黒い影。それが集まって、一つの形となる。

 

『我、復活せり!』


 影が吠えた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る