第6話

 わたしは昼休みに図書室棟の隣で『剛力の剣』を召喚して剣術の稽古をしていた。


「頑張っているじゃないか」


 木の影からわたしに声をかけてくる人がいた。璃々さんだ。


「『絶対正義』には強さが必要だからな」

「ふ、『絶対正義』か……」


 余裕の表情の璃々さんはポッキーをポリポリ食べていた。


「それて、要件は?」

「おっと、そうだった、海戸に勝ったそうだな」

「え、ぇ、敵討ちですか?」

「あの弱虫の為に敵討ち?気のきいたジョークだ」


 璃々さんは笑うが眼差しは真剣であった。冷徹で獣のような目つきであった。璃々さんはポッキーを食べ終わると。


「その『絶対正義』を潰しにきた」


 決闘の申し込みだ。やはり『絶対正義』を嫌っていた。


「明日の夕刻にこの広場で決闘だ!わたしが勝てば、その『絶対正義』のはく奪で良いな」

「『シャドーカード』じゃないのですか?」

「そんなモノは要らない、勝ったら陣にでもくれてやる」


 それは冷たい表情であった。氷属性にふさわしい表情である。イヤ、その心が氷を求めている様であった。昼休みが終わり、わたしは教室に戻る途中に輝夜さんとすれ違う


「輝夜さん、やはり『シャドーカード』は必要なの?」

「はい、このカードを使ってどうしてもしたい事があります」

「そうか……」


 おっと、今回の決闘の賭けは『絶対正義』であった。


『絶対正義』


 わたしの大切な思い出……。そう、それはわたしがわたしである為のアイデンティティだ。


 夜……。


 わたしは眠れないでいた。明日の決闘でわたしはすべてを賭けることにした。相手は『絶対正義』を公言する『炎華』なる女子生徒だ。このわたし璃々は五芒星の一人と戦うのである。命など要らない……そう、すべてを賭けるのだ。


 そして、この世界に『絶対正義』など存在しない事を証明する為に勝つ事を誓う。


 うん?

 

 メールが届いている。別居中の父親を名乗る人物からだ。内容はお金を貸して欲しいとの事であった。わたしはメール消して眠りにつく。


……。


 幼いわたしが父親に甘えている。


「お父さんは『正義の味方』の警察官だよね?」


 わたしが父親に近づいて問いかけている。


「おう、俺は『正義の味方』だ」


 父親は腕を組み自信満々にわたしに返事を返す。


「凄い、凄い!」


 わたしはそんな父親に抱きついて甘える。そう、わたしの父親には警察官であった。そんな父親はわたしの誇りであった。


……。


「あなた、なんで事故なんて起こしたの!」

「仕方ないだろ、動物が飛び出してそれを避けるためだ」


 わたしの父親は交通事故を起こして自主退職に追い込まれていた。警察官を辞めた父親は変わってしまった。昼間から酒を飲み、荒れた生活になっていた。両親の別居は時間の問題であった。


……。


「お母さん、お父さんは『正義の味方』だよね?」

「うるさい!あんなクズのことは忘れなさい!」


 母親も生活の為に無理をしてイラ立っていた。理屈で理解しても心が受け入れられないでいた。わたしは強くなる事を心に誓った。それは、わたしの『正義』の否定であった。


 それから、召喚術の特待生で学費を抑えて高校に進学した。そして『北斗』に出合い、裏から学園を支える力を得ていた。


……。


 夜中に昔の夢を見ていて、目が覚める。夢か……。わたしは今日の決闘で『絶対正義』の否定をあらためて誓う。『絶対正義』など存在しない。力だけが信じえるモノだ。少し寝不足だがこのまま起きている事にした。幼き日の思い出の悪夢で目が覚めたのだから。


 もし、決闘で負けたら、過去の父親の『正義』に負けたのであろう。そんな気分で朝まで勉強をしていた。


『レディーゴー』


 わたしは夕刻に図書室棟の隣で璃々さんと決闘である。賭けるのは『絶対正義』とおまけの『シャドーカード』であった。璃々さんは素早く魔法陣を描き術式が走る。現れたのは表面が氷のサーベルタイガーであった。その牙はものすごく、まともにくらえば即死である。


「姉ちゃんも召喚獣を召喚して」


 白花が叫ぶ、剣や魔法式の召喚術では勝てないとの判断だ。わたしは魔法陣を描き『フェニックス』を召喚する。フェニックスにまたがり空高く飛び上がる。空中で旋回してサーベルタイガーの様子をうかがっていた。璃々さんは「氷術ストーム」と叫び、サーベルタイガーに命令する。辺りに吹雪が立ち込めて完全に璃々さんのペースであった。


「『氷玉』だ」


 更にサーベルタイガーに命令する。サーベルタイガーの口に氷の渦が起きてそれを空中にいるわたしに飛ばす。


「避けろ、フェニックス」


 フェニックスの機動力でなんとかかわす。厄介だな、遠距離攻撃もできるのか。

吹雪は強まりわたしの体力を奪っていく。長期戦は不利だ。わたしは相打ちの判断をする。


「フェニックス、体当たりだ」


 わたしはフェニックスにまたがりながらサーベルタイガーに体当たりする。相殺する召喚獣にわたしは吹き飛ばされる。


「わたしのサーベルタイガーが一撃で、強い……」


 璃々さんは呟くと氷の氷柱を両手に召喚する。


「止した方がいいよ、その様子だと璃々さんは剣術に向いていない。サーベルタイガーが倒れた時点で降参すべきだ」


 白花が璃々さんに警告する。氷のサーベルタイガーみたいに高度な召喚獣は体力の消費が激しい。普段、剣や魔法式の召喚術をしていない璃々さんの負けだ。それでも戦おうとする璃々さんに、わたしも『剛力の剣』を召喚する。剣術戦に持ち込まれると璃々さんの氷柱は簡単に折れて動けなくなる。


「勝負はついた、この吹雪を解け」

「わたしは負けない……」


 璃々さんは無理をして立ち上がろうとするが崩れ落ちる。


 うん?


 様子がおかしい。わたしは璃々さんに近づくと体温が下がっている事がわかる。


「早く、この吹雪を解け!」

「『絶対正義』に負けるくらいなら死を選ぶ」


 わたしは弱い炎術で璃々の体を温める。それから、気を失う璃々さんであった。


……。


 保険室で眠る璃々さんにリンゴをむいていると。


「ここは?」


 意識が戻る璃々さんであった。


「勝負はわたしの勝ちだ、報酬は璃々さんが生きる事でいいな」

「『絶対正義』らしいな……」


 璃々さんはリンゴを口にすると笑顔が戻る。


「高度な召喚獣の相殺の後でなおも戦える炎華の勝ちだ」


 負けを認めて璃々さんはスッキリした様子である。


「わたしもその『絶対正義』に魅かれたかな……」


 璃々さんは負ける事で何かの呪縛から解き放たれた感じだ。きっと、今まで無理をして勝ち続けたのであろう。


 窓を開けると初夏の香りが部屋の中に入ってきていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る