第77話●お世話になります
談話室のソファーは
材料が気になっていたのですが、お母様は秘密だと言って教えて下さらなかったことを思い出しました。
アーマンドがティーセットを乗せたワゴンを部屋に押し入れると、一礼して談話室から出ていきました。
これからは家族だけでお話をするのですね。
お父様とお母様が並んで座られ、お父様の正面に私が、私の左側にお兄様が座りました。
「さて、ロゼリアーナ。これはアムネリアから届いた手紙だ。どんな内容が書かれているかは知っているね」
お父様は封筒をテーブルの上に置いて私の前へ差し出しながら問われました。
「はい。事が起きた当日にアムネリアから書いたものを見せて貰っていますから。実際に起きた出来事のみを簡潔に書いてありましたわ」
「そうだね。簡潔に書かれていたから流れはわかっているつもりだ」
そうですわよね。私の元に離婚申請書に署名するようエドワードからの指示があり、速やかに手続きを終えてこちらへ向かうと、とても簡潔に書いてくれてましたから。
お母様とお兄様は背もたれに軽くもたれて、しばらくはお父様と私の話を聞くだけの態勢のようです。
「そこには私達の感情の方向性が書いてありませんでしたから突然の事に驚かれましたよね」
お父様は何もおっしゃらず頷かれました。
「書類が届いたあの時の私は、直接エドワードと会話をする時間を取らなかったのです。お忙しいからと……。そして渡された書類を伝えられた通りに速やかに手続きをして、その日のうちにお城を下がりました。
もちろん私も驚きましたわ。ただ、何故と問うよりも先に自分の状況を考えてみたら仕方ないと思ってしまったのです。即位してから多忙なエドワードのお手伝いも出来ず、お城にいても役立たずでしたから」
「ロゼリアーナが役立たずなはずはないと私は思うよ」
お父様のお顔から目をそらしてしまうと、お父様が力付けるように言ってくれました。
「ありがとうございます。ですが王妃としてのお役目などほとんどすることがなく、エドワードに手伝いを申し上げても断られるばかりでしたの。何も出来ない自分が嫌で逃げて来てしまったのですわ」
私は再びお父様を見て、自分を見つめ直したからこそわかった当時は気付いていなかった気持ちをはっきり言いました。
お父様は髪の毛と同じ銀色の眉を上げ、少し驚いた表情を一瞬だけ浮かべられてからニヤリと笑われました。
「ほう、ロゼリアーナが逃げ出すほど城は居心地が悪かったのか。それはそれは」
お兄様とお母様はまだ何も話さずに笑みを浮かべたままです。
「いえ、居心地は良かったですわ。皆さんとても良くして下さいましたし。
でも、もしもまた機会があるのであれば、今度はエドワードに直接聞いてみることにしますわ。離婚の意志が本心だったのかと。
何より私の心はまだエドワードをお慕いしておりますもの」
「そうか。どうやら考える時間はたくさんあったようだ。迷いが見えないね」
「もちろんです。ただ、私が戻って来てしまったことでご迷惑をお掛けすることもあると思いますので申し訳ないのですが、こちらに滞在するお許しをいただきたいのです。よろしくお願いいたします」
エドワードをまだお慕いしている気持ちは本当ですが、今の私は彼と離婚して実家に帰って来ているのです。
一人では生活していくことが出来ない以上はここでお世話になるのですから。
私は腰を折ってお父様達にお辞儀をしました。
「あらまぁ、ロゼリアーナ。もちろんだわ。ねぇ、あなた。ジャニウスも」
「そうだね。ここがお前の実家だと言うことには変わりないのだから」
「何も心配しなくてもいいさ、ロゼッタ。私達は家族だなんだよ」
お母様が立ち上がりワゴンに向かわれ、お兄様が頭を撫でてくれました。
「ありがとうございます。お父様、お母様、お兄様。こうして、考えていた自分の気持ちを口に出してみたら気持ちがすっきりまとまった気分ですわ」
胸元の指輪のペンダントを生地の上から押さえて指先で形をなぞります。
お母様が出して下さったのはグラスに注いだ冷やした紅茶でしたので、話をして喉が乾いていた私には嬉しい冷たさでした。
「しばらくはゆっくり過ごしなさい。それとお前の事についての布告がないのだから、屋敷の者達には帰って来た理由は言わないように」
お父様から、食事の前にお兄様から言われたのと同じ事を言われ、そうだったと思い出しました。
「私の里帰りは休暇ですわ」
「うむ、そうだ。期間は『しばらくの間』でいいだろう」
お父様は何故、楽しそうななお顔をされていらっしゃるのかしら。
「ロゼリアーナ、帰って来る時の旅のお話を聞かせてくれるかしら?私はしばらく領都を出ていないから他所の町の話が聞きたいわ」
私はソファーに座り直されたお母様のご希望にお答えするように、王都の様子から順に家族に話をしたのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます