第9話●紅茶談義のち国王と宰相
アムネリアが連れてきてくれたお店のドアは木戸が緑、取っ手が赤に塗られた目に鮮やかな印象を受ける外観をしておりました。
カランコロンとドアベルを鳴らして入ると白いエプロンドレスを着た店員さんが席まで案内してくださいました。
リカルドも渋々一緒に入って来ましたが、私とアムネリアのテーブル席から離れたカウンター席を選んでいたので、店員さんが首を傾げていらっしゃいました。
「おすすめの紅茶とケーキはどのようなものがありますか?」
「今日のおすすめは隣国から取り寄せたフレーバーティーと甘さ控えめのアップルタルトです。アップルタルトはついさっき焼き上がりましたので特におすすめですよ」
案内してくださった店員さんにおすすめを訊ねると、そのままオーダーも聞いてくださったのでおすすめを2セットお願いをしました。
店内の装飾を拝見しているうちに、先ほどとは違う店員さんがセットを運んで来てくださいました。
アムネリアがポットからカップに注いでくれたフレーバーティーは、私が実家にいたころに良く飲んでいたものだったので、アムネリアとしばらく紅茶談義をしてしまいました。
焼きたてのアップルタルトにはブラックベリーソースがかけられ見た目も可愛らしく、タルト生地はサクサク、アップルの密煮は甘さ控えめでしたがソースと合わせるとちょうど良い甘さになる素晴らしくバランスが取れたケーキでございました。
カウンター席のリカルドを見ると私達と同じセットをいただいているようでしたので、後から再度紅茶談義とケーキ談義に花を咲かせることにいたしましょう。
※※※ ※※※
ロゼリアーナの姿が王妃の間から消えたショックで仕事に手が付かなくなったエドワード国王は、宰相のヴィクトルと侍従により寝室へ運ばれて翌日を迎えていた。
「ロゼリアーナは見つかったか?」
ベッドから起き上がることなく目の下に隈をつけたエドワードは、ギョロリと視線だけを向けて寝室を訪れたヴィクトルに尋ねた。
癖のある金髪は寝癖でさらにひどくなっているが、起き上がる仕草もないのでまぁいいかとヴィクトルは気にするのをやめた。
「それが、ロゼリアーナ様は侍女のアムネリアと護衛騎士のリカルドを伴って城から出られたとの情報を、城に残っていた侍女二人から得られた。
ただ、荷物を積んだ馬車数台が城門を抜けた記録はあるが、ロゼリアーナ様達らしき三人を乗せた馬車は記録になかった」
「ロゼリアーナ……」
エドワードは瞼を閉じると腕で両目を隠し、歯を食い縛って嗚咽を堪えた。
「ロゼリアーナ様の行方は引き続き探索させている。
エドワード、このような状況になった理由がわかるか?」
「……あぁ、ずっと考えていた。父上の書類だろう」
「そのようだ。昨日エドワードをここまで運び込んでから執務室に戻った。帰りがけのガロンをつかまえて王妃の間に書類を届けたかと聞いたら『届けましたよ』と答えられた」
「…………私の伝え方が悪かったんだな」
「……私が宰相補佐を付けようとしたからかもな」
「思うに、ロゼリアーナはおそらく私が多忙だからと気を使って確認に来れなかったんだろう」
「ロゼリアーナ様の優しさ故か……」
エドワードは大きく息を吐いた。
「世話をかけてすまなかった。
湯を使ったら政務に戻る。ヴィクトルは先に執務室へ行っていてくれ。今は探索者からの連絡を待つ。私は私の仕事をしなければロゼリアーナに合わす顔がない」
顔から腕を外してエドワードは起き上がるとヴィクトルの目をしっかり見つめて言った。
「わかった。先に行っている。執務室で」
ヴィクトルが寝室から出るとエドワードは侍従に湯の支度を命じ、またしばらく瞼を強く閉じてから見開いて呟いた。
「私は国王だ。ロゼリアーナ、待っていてくれ。必ず迎えに行く」
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