第475話 スネークホイホイ作戦(2)

 ハヤテはハヤテで地面に転がる重いダンクロールの死体を引きずる。

 よほど重いのだろう。

 ダンクロールの固い皮膚に噛みついたハヤテの鼻先に無数のしわが寄る。

 ハヤテは、後ずさるようにダンクロールの体を引いていく。

 後ろ向きに力を込めて引っ張らないと動かないほどの重さなのだ。

 そのハヤテの横をタカトが死体を背負ってとぼとぼと歩いている。

 さすがにダンクロールを引っ張るハヤテに奴隷の死体を乗せる訳にもいかない。

 まして、自分が今、その背に乗ろうものなら確実にハヤテにかみころされそうである。

 それほどまでにハヤテの目は真剣だった。


 ハヤテとタカトは第四コーナーをやっとのことで回った。

 残すはホームストレートのみ。

 ゴールの直前には、大きな三頭蛇のグレストールが二人の帰りを今か今かと待ち構えていた。


 ハヤテの作戦はこうだ。

 タカトは、奴隷の死体を担いでいる。

 ハヤテは、ダンクロールの死体を咥えている。

 二人がそれぞれの死体を担いだまま、一気にグレストールめがけて突進するのだ。

 そして、グレストールの鼻先で、それぞれの死体をグレストールの口めがけて投げつける。

 おそらくうまくいけば二つの口は、このエサに飛びつき食らうはず。

 さすれば、その口はふさがるはずなのだ。

 なげつけた後は、何も考えずにゴールに向かって猛ダッシュ!

 以上、現時点を持って本作戦を『スネークホイホイ作戦』と呼称する。


 今一度スネークホイホイ作戦とやらを、おさらいしたハヤテとタカトは互いにうなずいた。

 今や二人の目は闘志に燃えている。

 目の前のグレストールと言う敵をかわさないと、どのみち生きて帰れないのである。

 ならば、やってやるよ! と言わんばかり。


 しかし、ハヤテはスネークホイホイ作戦の肝心なことをタカトに伝えていなかった。

 そうそれは、残ったもう一つのグレストールの口である。

 おそらく残った口はタカトかハヤテに向かって伸びてくるはずなのだ。

 ハヤテは自分の方に向かってグレストールの口が来れば、一つぐらいならよける自信があった。

 これならば、タカトもハヤテもグレストールを潜り抜け、共にゴールできるかもしれない。


 だが、残った首がタカトの方に行けば、どうなる。

 ビビる腰抜けのタカトの事だ、おそらく、タカトは食われるだろう。

 だがしかし、これは魔物バトル、騎手は単なるお飾り。

 すなわち、タカトが食べらられたとしても、ハヤテがゴールすれば、ハヤテの優勝なのである。

 ――すまないな……タカト……

 ハヤテは少々、胸が詰まる思いがしたが、背に腹は代えられない。

 自分が生きて帰るには、現時点でこれが最善の方法なのである。

 後は、残ったグレストールの首がタカトではなく自分の方を襲ってくれることを祈るのみであった。


 ハヤテはダンクロールの体を力いっぱいに咥え上げた。

 踏ん張る前足に力がこもる。

 イノシシの巨体を咥え上げるその目がグレストールをにらみつける。

 いくぞ!

 ハヤテは一気に加速する。

 それに続いて、ホイホイとタカトもまた懸命にダッシュしはじめた。

 奴隷の死体を背負ったままである。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る