第459話 SSRなんて、たいしたことありません(3)

 そんな二人に、レースの案内の声が届く。

「おっと! 今はいってきた情報だ! 本日のメインレースの商品は、なんとあの天馬の黄金弓が賭けられるそうだ! これは凄いアイテムが出てきたもんだ! まだ、参加枠は残っているぞ! 参加するもの! 誰かいないか!」


 そのアナウンスを聞いたタカトは叫んだ。

「なんだって、黄金弓だって!」

 それは、魔の国に入った際にエメラルダがゴリラの魔人たちに奪われた弓だった。

「よし! 俺も出る!」

 タカトの鼻息が荒くなる。

 まるでヒマモロフの興奮効果が体を支配したかのようにムキになっていた。


 タカトの背後で、今まで静かに座っていた半魔のハヤテが急に大きな唸り声をあげた。

 歯をむき、鼻先にしわを寄せて低い声を出している。

 ハヤテもまた、急に興奮し始めたのだ。

 タカトは、そんなハヤテの様子を見ると、何かを急に感じ取った。

 そして、すぐさま、ビン子のカバンの中から『ワンちゃん!以下略』を取り出すと、開血解放し自分の頭にピタリと着ける。

 道の往来の真ん中で、犬の耳を頭につけ、鼻先に黒い犬の鼻をつけたマヌケが一人現れた。


 その様子を見たリンの目が丸くなる。

 コイツはついに頭が狂ったのか?

 もしかして、ヒマモロフの油が効きやすい体質なのだろうか。

 実際にいるのだ、人よりも興奮作用や催淫作用が強く出る人間が。

 だが、この男はどう見ても、そんな繊細な感じには見えなかった。

 どちらかと言うと鈍感。


 タカトは頭につけた犬の耳に手を当てる。

 黒い鼻をヒクヒクさせてハヤテと話しだした。

「こいつもバトルに出たいんだって!」

 リンは驚いた。

 コイツ……半魔の犬としゃべることができるのか?

 まさか……?

 魔物は、人を食べ生気を蓄えて魔人へと進化する。

 それによって、やっとのことで知性を獲得するのだ。

 だが、この半魔はどう見ても魔人の形態とは程遠い。

 その鳴き声も、どう聞いても犬のそれ……

 百歩譲って、半魔の犬に知性がないとは言わない。

 だが、コミュニケーションが取れるほどの知性があるというのか?

 いや……おそらく、このタカトという男の知性が、犬並みなのだろう。

 犬と犬どおし、通じるものがあるのではないだろうか。

 リンは、この状況を無理やり納得させた。

 ヘックション!

 ビン子がくしゃみをした。

 なぜか、ビン子自身、自分の事を犬並みと誰かにバカにされたような気がしたような、しなかったような……

 そうだった……一番最初に話したのはビン子ちゃんでしたよね……


 タカトは相変わらず、犬耳に手を当ててハヤテと話している。

 ハヤテもまた、声を震わせている。

「こいつが言うには、参加者の中にあのゴリラもいるはずだって!」

 まぁ、その可能性は高いだろう。

 エメラルダの黄金弓を奪ったとしても、並みの魔人では使いこなすことはできない。

 使えないのであれば黄金弓など武器としての価値などないに等しいのだ。

 ならば、その黄金弓を掛け金として、より使えそうなアイテムを一気に獲得する。

 欲どおしい考えであるが、うまくいけば、かなりグレードのいいアイテムががっぽりと手に入ることだろう。

 ならば、そんなチャンスをゴリラの魔人たちが逃すはずもない。

 そもそもただで手に入れたものなのだ、一発逆転を考える短絡的な思考が生じてもおかしくはない。

 まあ、いくら知性があると言っても、ゴリラ程度なのである。

 自分が負けるかもしれないなどとは考えてもないのだろう。


「そうだよなリベンジだ! リベンジ!」

 タカトとハヤテが意気投合し、道の真ん中で遠吠えを上げていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る