第376話 半魔の犬(2)
その時、エメラルダが突然、動いた。
大岩から飛び降りると、一直線にカエルの輪に突っ込んだ。
カエルたちが一斉にエメラルダに飛びかかる。
エメラルダは、寸でのところで、身をひるがえし、カエルの連撃をかわしゆく。
そして、走る。一直線にタカトたちのもとに向かって。
だが、エメラルダの後を追って、カエルたちもジャンプする。
――あと少し!
エメラルダは懸命に走る。
カエルたちを、暗殺者のところまで導けば、カエルたちが、暗殺者を襲うかもしれない。
そうすれば、もしかしたら、あの二人だけでも小門へと逃がすことができるかもしれないのだ。
そんなかすかな希望を抱き、懸命に走る。
しかし、次の瞬間、エメラルダの視界がストンと落ちた。
エメラルダの足が、何かにからまり後方へと引っ張られた。
地面に顔をしたたかに打ち付けたエメラルダが、足元をかえりみる。
すると、足にはカエルの舌が巻き付いていているではないか。
――くそ! あと少しなのに……
エメラルダは唇をかみしめた。
「誰か! たすけてぇ!」
涙目のビン子は大声で叫んだ。
犬耳と犬鼻をつけて懸命に吠えた。
無我夢中で、泣き叫んだ。
その瞬間、小門の影から一陣の風が吹き抜ける。
その風は、エメラルダめがけて一直線。
エメラルダめがけて天高く飛び上がっていたカエルたちの体が、その風により真っ二つに切り裂かれていく。
――えっ!
何がおこったのか分からぬビン子。
ネコミミのオッサンも、突然のことに大きく目を見開いているだけだった。
その風は、エメラルダの髪をたなびかせ吹き抜けた。
エメラルダの背後に、砂煙が立ち上る。
晴れていく煙の中には、大きな犬が立っていた。
いや、犬と言うよりオオカミと言った方がいいのかもしれない。
それほど壮観な大きな犬であった。
だが、その顔立ちには幼さが残る。まだ若い。大人になり切れてない様子がなんとなくわかる。
その犬は、普通の犬とは違っていた。
そう、頭に角が生えているのである。
――魔物?
一瞬ビン子は疑った。
しかし、違う、それは半魔の犬である。
――この子……もしかして?
半魔の犬は、ビン子の方角へと向きを変えたかと思うと、勢いよく後ろ脚を蹴りだした。
その勢いで、ビン子の視界は犬の姿を見失う。
――どこ行ったの?
姿を探すビン子の目が、大きく見開く。
次の瞬間、ビン子の目の前に大きな犬の牙が開け広ぐ!
――ひぃぃぃ!
ビン子の顔が、その恐怖で引きつった。
だが、その口は、ビン子の黒髪をかすめ、その背に立つ暗殺者の肩に噛みついた。
そして、勢いをそのままに、その大犬の体は上空へと反転し、暗殺者の体を巻き込んだ。
その回転に巻き込まれた暗殺者の体は、ビン子の体から無理やり引きはがされ、後方へとはじけ飛ぶ。
その様子を唖然と見つめるしかできないネコミミオッサン。
――今日は何かおかしい。何もかもが、イレギュラーすぎる!
予測を超える出来事に、オッサンの思考が追いつかない。
その時、オッサンは何かの気配を感じた。
反射的によけるオッサンの体。
その鼻先をエメラルダの拳がかすめていく。
カエルたちを薙ぎ払い、ほんのわずかな隙を狙ってエメラルダが迫ってきていた。
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