第345話 ショッピングバトル!(1)

 今日は、やけに小門の中がざわついている。

 特に女たちが、自分の持っている服の中で、一番おしゃれなものを着飾って、互いに嬉しそうに話をしながらそわそわしているのだ。

 そう、今日は、待ちに待った商人隊が小門に商品をもって訪ねてくれる日なのである。

 ガンエンから、お金のことは心配するなと言われていた。

 もう、今から何を買おうかと、うずうずしているのである。


 一方、男どもは、ガンエンの指示のもと、万命寺の廃品を整理していた。

 男たちに交じって、ビン子がせわしなく動いている。

 ビン子自身、権蔵の手伝いでやっている道具運びと同じことなので、特に苦は無かった。

 かといって、他の女たちのように、おしゃれに気がないわけではない。

 ただ、着飾る服がないのである。

 スラムの女たち以上に、おしゃれな服がないのである。

 今、着ている服だって、権蔵がタカトに買った服を、タカトが着ないと頑なに拒んだから貰ったものである。

 まぁ、ビン子自身、貧乏には慣れている。

 ここで、誰かにすがっておしゃれをしたとしても、すぐさま、元の貧乏に戻ってしまって寂しい思いをするだけだ。

 一瞬だけでも夢を見てもいいじゃない。スラムの女たちがそのように思うのは当然である。

 だが、ビン子は、自分がおしゃれをすることで、誰かがその少ない恩恵を受けることができなくなるのではないかと思っていた。

 たかがビン子一人ぐらい。ガンエンが聞けば、そう答えるだろう。

 だが、ビン子にとって、自分の事よりも他人が喜ぶことの方が嬉しいのである。

 そう、タカトが自分にしてくれたこの服のことのように……

 ならば、ココで万命寺の廃品整理を手伝えば、少しでも多くのお金に変わるかもしれない。そうすれば、一人でも多くの女の子が笑顔になるかもしれない。

 荷物を運ぶビン子の足がいっそうせわしく行き来する。

 男の中で働くビン子の姿は、男たちに指示を出すガンエンの目を引いた。


「タカトや、お前も、ちっとは働け……」

 ガンエンが、こそこそと人陰に隠れて、仕事をさぼっているタカトをあきれた様子で叱った。

 !?

 ビクッと体を硬直させるタカト。

 ――なんで見つかったんだ……

 タカト自身、うまく人陰に紛れ隠れ通していると思っていた。

 見つかるわけはない。時間まで、こうやって、人影の中を行ったり来たりしていれば、重いモノなど運ばずに済む。

 ――俺はこうやって今まで権蔵じいちゃんの目をかいくぐってきたはずなんだ。

 それが、作業開始直後、すぐさまガンエンに見つかったのである。

 まあ、それは致し方ないことであった。

 着つぶした小汚いティシャツが、人ごみの中をこそこそと動く。

 その姿は、まるでゴキブリ。

 返って、余計に目を引いたのである。


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