第342話 ミーアの心変わり(1)
「エメラルダの姉ちゃん」
タカトは、ビン子とじゃれあっているエメラルダに声をかけた。
エメラルダは、ビン子からぱっと離れ、スカートのホコリをパッパッと払う。
そして、何事もなかったかのように、いつも通りの笑顔でタカトを見つめた。
「タカト君、何?」
タカトは、先ほどまでのいやらしい表情が嘘のように、少し悩んでいるような表情を見せた。
「実は……ミーアの事なんだけどさ……」
その言葉を聞いたエメラルダの表情が、急に真顔に変わった。
おそらく、この先は真剣な話。そう感じ取ったエメラルダは、頭を切り替える。
うつむくタカトは、言葉をつづけた。
「あいつ、魔人国に帰りたいんだって……でも、その方法が見つからなくて……」
ミーアとは、魔の国の第三の騎士ミーキアンの神民魔人である。
エメラルダが反逆罪として罪人となり捕らわれの身となった情報を聞きつけたミーキアンは、第六の騎士ガメルに依頼して、聖人世界に通じる騎士の門を開けさせた。
ガメルたちの部隊が、融合国内で攪乱をしている間に、その開け放たれた騎士の門からミーアが、第六の宿舎へと侵入し、地下牢からエメラルダを救い出したのである。ここまでは順調であった。
本来なら、ガメルたちは、その脱出してくるミーアが騎士の門を潜り抜けるまで、攪乱し続けるつもりであった。しかし、融合国側のアルダインにも、ガメル侵攻の情報が漏れ伝わっていたのだ。いち早く対応したアルダインの猛攻により、ガメルたちはミーアの帰還を待たずに、門内のフィールドへと撤退を余儀なくされた。これにより、ミーアは、融合国内に取り残された。しかし、自らの使命であるエメラルダ救出を優先さるために、融合国内のはずれを目指して逃走したのである。しかし、所詮は一人、しかも、立つことすらままならないエメラルダを連れての逃走劇は困難を極めた。深手を負ったミーアは、森の中で膝をつく。
――だが、なんとかして、エメラルダだけでも……
意識が飛びかけるミーアの想いは、ただただ、その一念のみであった。
そんな時である。
森の中でタカトとビン子に出会ったのは。
しかし、ココは聖人世界の融合国。すなわち、人間の世界である。
一般の人間など、魔人を見れば、悲鳴を上げて守備兵の助けを呼ぶのが普通である。
ミーアは懇願した。
「せめて、エメラルダだけでも助けてくれと」
ミーアは覚悟していた。
自分の身はどうなってもいい。しかし、エメラルダ救出の使命は、ミーキアンとの約束。だから、エメラルダが生き残ってくれればそれでいいのだ。
しかし、タカトたちから返ってきた言葉はミーアの予想を反した。
それは、魔人であるミーアの身を案じたものであったのだ。
意味が分からぬミーア。
――私は魔人だぞ……それも、神民魔人。殺してしまうのが、この世の理。
だが、深い傷のせいでミーア自身も、体を起こしているのがやっとであった。
タカトたちに逆らうこともできず、なすがまま、馬へと乗せられた。
万命寺へと連れてこられたミーアは、そこで意識を失った。
気づいた時には、ガンエンの治療を受けた後のこと。
――なぜ?
自らの腹に巻かれた包帯を見ながらミーアは悩んだ。
――ココは聖人世界のはず……なぜ、私は、助けられたのだ?
だが、とっさにミーアは思い出した。そう、ミーキアンからの大切な使命を。
――そうだ、エメラルダはどうなった?
まだ、傷が痛む体を押して立ち上がり、歩いていく。
権蔵とガンエンに告げられた奥の部屋へと、壁をつたい、足をひきずる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます