第四部 魔の国のクジャク

第一章 策謀

第336話 プロローグ

 むかし、むかし、ある所に、一羽のきれいな雌クジャクがいました。


 そのクジャクの羽はとても美しく、そして、何よりもその歌声は、みんなをうっとりとさせました。


 雌クジャクは、ある時、森の中で足にけがをしてしまいました。

 どうやら、小さな虫たちに、足を刺されてしまったようなのです。

 動けなくなった雌クジャクは、茂みの中でブルブルと震えています。


 そんな時、雄のクジャクが、空から舞い降りて、そこら辺にいる虫たちをついばみました。虫たちは慌てて逃げていきます。

 それから、雄クジャクは、雌クジャクの足に傷薬をぬってあげました。

 すると、雌クジャクの足の傷は、たちまち治って、元気になりました。


 それからというもの、雌クジャクは、雄クジャクといつも一緒。

 空を飛ぶ時も、ご飯を食べる時も、二羽が仲良く並びます。


 あるとき、道の真ん中で、一匹の獣が倒れていました。

 どうやら、お腹が減りすぎて、動くことができないようです。


 そこに通りがかった、2羽のクジャクたちは、お互いに顔を見合わせました。

 すると、雄クジャクは、何も言わずに、空に飛んでいってしまいました。


 ほどなくして、雄クジャクが、何匹かの小さなな虫を捕まえて戻ってくると、獣の口の中へその虫たちを突っ込みました。

 何度も何度も、雄クジャクは行ったり来たり。

 その甲斐あって、空腹だった獣は元気になりました。


 それから、2羽のクジャクと一匹の獣は、大の仲良しになりました。

 空飛ぶ2羽のクジャクの後を、一匹の獣が追いかけます。

 どこに行くのも、3匹は一緒。


 楽しい食事の後には、雌クジャクのコンサートです。

 広い花畑に、美しい歌声が響き渡ります。

 雄クジャクと、一匹の獣は、雌クジャクの歌声を聞くの大好きでした。

 いつも、風に揺られながら、その音色に身をゆだねます。


 しかし、ある時、この国の王様が、雌クジャクの歌声の評判を聞きつけました。

 王様は、家来に命令します。

「その美しいクジャクを捕まえてこい」

 家来たちは、軍隊を引き連れて、雌クジャクを捕まえてしまいました。


 王様は、雌クジャクに命令しました。

「さぁ、私のために歌っておくれ」

 雌クジャクは、悲しそうな表情で首を振るだけ。

「それなら、この不老不死のキャンディをあげよう」

 それでも、雌クジャクは首を振ります。

「そうか! もういい!」

 王様は、頭にきて、雌クジャクをカゴの中に閉じ込めてしまいました。


 カゴの中で、一人ぼっちの雌クジャクは、涙をこぼしていました。


 そんな時、バサバサと大きな音が、窓から入ってきました。

 雌クジャクが顔を上げると、そこには、雄クジャクがいました。

 雌クジャクは、うれしくなって、歌いました。


 それから毎日、雄クジャクは雌クジャクのところに遊びに来ました。

 雌クジャクは、雄クジャクが来ると、綺麗な歌声で歌います。


 でも、その歌声が、日に日に弱くなっていきました。

 どうしたことだろう?

 雄クジャクが雌クジャクの様子を伺います。

 すると、雌クジャクが首からかけているキャンディーに小さな虫たちが引き寄せられているではありませんか。

 その虫たちが、雌クジャクの体をついばんで、体や羽を傷つけていました。


 雄クジャクは、雌クジャクをカゴから出そうとしましたが、カゴは、全く壊れません。

「これがあるから、虫たちが寄ってくるんだ」

 雄クジャクは、雌クジャクの首にかかるキャンディーを奪いました。


「虫たちが届かないところに捨ててきてあげるよ」

 と言うと、雄クジャクは大きく羽を広げました。

 そして、天高く舞い上がり、空に浮かぶ月に向かって飛んでいきました。

 いまでも、夜空に浮かぶ月を眺めると、その雄クジャクがいるのが見えるかもしれません。


 そう、それが、月に住むといわれる鳳の伝説。


 遠い遠い昔のお話。







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