第335話 エピローグ

「タカト! 待ってよ!」

 そんなピンクのオッサンとコウスケの横を、アルテラのライトグリーンの髪が夕日の光を散らしながら飛び出してきた。


「私を置いてかないでよお!」

 アルテラが叫びながら走る。


 しかし、アルテラの体が後ろに引っ張られて、動きを止めた。


「アルテラ様、なりません!」

 ネルが、アルテラの手を引っ張っていた。

「何するのよ!」

 アルテラがネルをにらみつける。


「アルテラさまは、今から神民病院でお怪我の具合を見ていただきます」

「私は、大丈夫よ! 邪魔しないで!」

 ネルの手を振り払うアルテラが怒鳴りつけた。


「一体これは、なんの騒ぎでしょうか?」

 オオボラが、アルテラとネルの前に現れた。走ってきたのであろうか、少々肩が揺れ、息が荒い様子である。


「オオボラ! 貴様! 今頃現れおって! アルテラさまの護衛をするのがお前の役目であろうが!」

 そんなオオボラに対して、ネルの怒りが爆発する。

 状況が分からないオオボラは、瞬時にひざまずき頭を垂れた。

「申し訳ございません。アルテラさまは本日、人魔収容所見学と言うことで、危険は特になかろうと判断し、私用を果たしておりました」

 というか、実際はアルテラが、オオボラがいることによりタカトとの二人の時間が邪魔されると考え、ついてくるなと強く命じていたのである。

 そのため、オオボラは、夕刻まで空きの時間ができた。

 そこで、かねてから考えていた作戦を実行するために、街で自らの奴隷兵たちを使い人探しをしていたのであった。


 ――あれは、第六のカルロス元隊長か……

 うつむくオオボラの目が、去っていくタカトたちを伺っていた。


 ――俺に運が向いてきた……あいつとカルロスなら、きっとレモノワの足を引っ張ることができる。

 オオボラの顔が、日頃みせることが無いような、いやらしい笑みを浮かべていた。

 レモノワの足を引っ張る?

 忘れている方もいるかもしれないが、レモノワは第三の門の騎士である。

 そして、今は、宰相アルダインの命により、小門の中にひそんでいる罪人エメラルダを討伐するために暗殺部隊を手配している最中のはずなのだ。


「いいじゃない。オオボラだってやりたいことがあるのよ!」

 急いでアルテラは、オオボラに助け舟を出した。

 ネルは、そのアルテラの気まずそうな様子に気づくと、おおよその事を理解し、オオボラを叱責することをやめた。

「もうよい。今からすぐにアルテラさまを神民病院にお連れしろ。そして、お体に異常がないか、よく検査するのだ」

「御意」

 オオボラは、膝まづきながら、頭を再び下げた。



 小門の中でカルロスと再会するエメラルダ。

 カルロスの姿を見るとエメラルダは泣き崩れた。

「無事でよかった……本当によかった……」

 カルロスがエメラルダに近づいた。しかし、エメラルダは小さく震え緊張する。

 その様子に気づいたカルロスは、咄嗟に手を引っ込めた。

 ――このおびえよう……いつものエメラルダ様とは異なる……

 その異様なまでのおびえようから、何かを察したようである。

 ――そうか……そういう事か……少年たちがワシに何も言わなかったのは、こういう事か……

 その瞬間、カルロスは、手を地面につけ泣き崩れた。

「エメラルダ様……ワシらが不甲斐ないばかりに、本当に申し訳ございません……」


 タカトがエメラルダの手を取り、カルロスの手とそっとつなげた。

 そして、タカトの手が二人の手をそっと包む。

 エメラルダの震えが、安心するかのように収まった。


「少年よ……ありがとう……ありがとう……ありがとう……」

 カルロスは、タカトのその手にもう一つの手を重ねて、何度も頭を下げた。

 ただ、その目からは、鬼教官と言われていた魔装騎兵とは思えぬような大粒の涙が、ボロボロとこぼれ落ちていた。


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