第329話

 タカトは、ティアラのもとへと歩み寄ると、膝をついた。

 ティアラの顔を覆っていた手を優しく握ると、語り掛けた。

「その神祓いの舞と言うのがあれば、お前は助かるのか……?」

 ティアラは小さくうなずいた。

 涙がとめどもなくこぼれ落ちる目で、タカトを見つめながらうなずいた。

「そうか……なら、もう少し、時間をくれ。神払の舞はできないが、荒神の進行を抑える方法を、調べてみる……」

「できるの……」

「……実際に、俺の生気で、少し荒神化が収まっているのは事実だし」

「信じていいの……」

「……いざとなれば……」

 タカトは、自分の胸の中心を親指で指さした。だけど、その親指は少々震えている。ちょっとびびっているのかしら? ビン子はその様子を、悲しそうに見つめていた。

「あなたを信じて……あと、少し頑張ってみる……」

 ティアラは、涙をたたえた目でほほ笑んだ。


「タカト! にげろ!」

 タカトとティアラの背後で、ミズイの声が大きく響いた。

 咄嗟に後ろを振り向くタカト。

 そのタカトの目には、床の上を激しく転がっていくミズイの姿が映った。

 !?

 その状況の意味が分からないタカトの体は、固まった。


「よくも、小僧! 許さんぞ!」

 怒りに震えるソフィアが、緑色の目を吊り上げ、タカトたちのもとへと近づいてきていた。

 ビン子がとっさにかけた。

 神の盾を発動しようと、両手を前に突き出した。

 しかし、遠い。

 タカトまでそんなに離れていないと思っていたのに、神の盾で覆い尽くすには、少々、遠すぎる。


 ヒィィィ!

 タカトは声なき悲鳴を上げた。

 すでに足は、生まれたての小鹿のようにブルブルと震えている。

 先ほどまでの威勢はどこに行ったのやら……

 マジで格好悪いぞ。


 ソフィアが爪を振り上げる。

 その爪先が怒りで震えているのが、タカトにはよく分かった。


 やっぱりあの時、とどめを刺しておけばよかったかも!

 タカトは後悔した。


 ソフィアの爪が一気に振り下ろされる。


 チーン!

 タカトの魂は抜け落ちた。また、失神か!

 タカトの魂は、どこか別の世界の花畑を見た。

 飛びかう妖精たち。

 あっ! また、ゴキブリさんだ!

 ゴキブリさんは帰ってね!

 またもや、花畑から追い出されたタカトは、見たくもない現実のもとへと帰ってきた。

 覚醒失敗! 大失敗!

 だって、ビン子が神の盾を展開するために生気をバンバン消費してますからね。

 だから! お前が使う生気はネエ!


 タカトは覚悟した。

 いや、本等は覚悟などしていないのだけど、もう、どうするも事できなかった。

 ただただ、震えるのみ。

 今度は終わった……

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