第238話 帰りたい・・・(4)


「なら、俺が帰る方法考えてやるよ。だから、知っているやつを教えろ」

 はっと、顔をあげるミーア

「一体どうするというんだ! 大門も騎士の門も通れない、中門もどこにあるか分からないだぞ!」

 ふんと腕を組み笑みを浮かべるタカト

「お前といっしょさ! 俺には分からない!」

「はぁ?」

 あきれ返るミーア

 しかし、タカトはそんなミーアに気を留めず続ける。

「俺は知らん! だが、知っている奴ならいるかもしれない!」

「私の真似か? そんな嫌がらせをして楽しいか?」

 チッ、チッ! チッ!

 タカトは顔の前で指を振った。

「バカか! 俺は知らんが、魔人国の誰かなら知っているかもしれんだろうが!」

「一体どういう事だ?」

「俺が小門を通って、魔人国に行ってやる。そこで、ミーアが帰れる方法を聞いてきてやるよ」

「小門を通ってって……」

「そう、あの小門は魔人国に通じているんだよ」

「かといって、お前が魔人国に入ったとたん、魔物たちの餌食だぞ!」

「やってみないと分からないだろ」

「バカか! 導き手もいない人間が魔人国に入れば死しかない!」

 一般国民が魔の国に導き手なしで入ることは危険だと教える。人間はただの食料でしかない。見つかり次第、食べられてしまうと。

「でも、それ以外に方法ないだろう? こちら側で、魔人さんが魔の国に帰りたがっていますって聞けるか? 聞いたとたんに袋叩きにあうわ!」

「それもそうだが……ただ、お前ひとりでは……」

「だれが一人で行くって言ったんだよ! そんな危ないところ!」

「それなら……」

「当然、強いお仲間連れていくに決まっているだろ!」

「そうだな、さすがにタカト一人では無理だよな」

「だろう。せめてカルロスのオッサンでもいてくれたらな」

 カルロスは、タカトたちを庇って人魔収容所に収監されていた。

 エメラルダから、カルロスを救ってくれと懇願され安請け合いをしたものの、その方法が見当たらない。

 そう言えば、アルテラが、人魔収容所から道具制作の依頼を持ってきていたな。

 もしかしたら……助けられる?


「かといって、仲間がいても危険なことは変わりない。町には魔人たちが無数にいるんだ」

「街に近づかなかったらいいだけの事よ」

「そうか……ならば、私の主人である、第三の魔人騎士ミーキアンさまを頼れ。私の名前を出せば、ミーキアンさまは必ず力になってくれる。そして、お前が、欲している魔人の事も知っているはずだ」

「ミーキアンだって! エメラルダはミーキアンと叛逆を企てたために、あんなひどいことになってるんだぞ!」

「ミーキアンさまは、叛逆なぞ企てん!」

 ミーアは机をたたいて怒鳴った。

「ミーキアンさまは、人間のエメラルダを唯一の同志として認めておられる。だからこそ、私が、エメラルダを救いに来たのだ。分かるか! 私の命よりもエメラルダの命の方が尊いのだ!」

 ぐっ!

 さすがに返す言葉が見当たらないタカト。

「しかし……ミーキアンとエメラルダは何がしたかったんだよ……あんな目にあってまで」

「詳しくは知らない……ただ、この無益な争いを止めようとしていたことだけは確かだ」

「だから……それがこの世界では……叛逆じゃないのか……」

「……確かに……そうとも言うかもしれないな」

「だけど……誰かが死ぬのは嫌だな……」

「そうだな……」


「ところで、私には言ってくれないんだな」

「何を?」

「女の子には、いつもおっぱいもませろって言ってるじゃないか、私も、一応女の子だぞ」

「えっと……」

 固まるタカト。

「冗談だよ、冗談。話が湿っぽくなったからな」

 笑うミーア

「冗談かよ。必ずミーキアンと相談してくる。きっと何とかなる。それまで待ってろって!」

 赤くなって笑うタカト。

 ミーアの目から涙がこぼれる落ちた。

 椅子から立ち上がり、タカトの手をそっと取り自分の胸に押し当てる。

「私は帰れるんだな……」

 ミーアは、そのまま、ぎゅっとタカトを抱きしめた。

 小さくありがとうと言葉が漏れる。


 慌てたタカトは、ミーアの体を押し離す。

「ところで、お前! 俺の部屋に入ってないだろうな!」

「タカトの部屋か? あぁ、入ってないぞ。本棚の女の本なぞ見ておらん」

「お前! 俺のコレクションを見たのか!」

「見ただけだ…触っておらん!」

「触られてたまるか!」

「しかし、タカト、お前、ああいうのが好みなのか?」

「いやぁ……そんなわけでは……」

「私のも、結構大きかっただろ?」

 意地悪そうに笑うミーア

 タカトの目は、あっちこっちに泳いでいた。

「まずは……カルロスのおっちゃんかな……おっちゃんも胸大きいし……」

 意味が分からんぞ!

 タカト! 落ち着け!


「ところで、タカト。お前、オイルバーンというものを知っているか?」

「オイルバーン?」

 そういえば、タカトがガメルと対峙した時にも、そんな言葉を聞いたことがあるような気がする。

 だが、タカトが知っているのは……

「あぁ、オイルパンならそこの作業場にあるぞ。いるか?」


 それを聞くミーアは飛び上がるほどうれしいといわんばかりの表情を浮かべていた。

 そう、これでガメルさまとの約束も果たせたというものだ。

「それ貰っていいのか! ありがとう! タカト! ありがとう! 」

 だが、それはオイルパンであって、オイルバーンではないのだよミーア君!

 ざんねん!



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