第221話 終結!神民街人魔騒動(3)

 峡谷内で神民魔人と魔装騎兵がぶつかり合う。

 ココは聖人国のフィールド内、限界突破が使える魔装騎兵の方が有利であることは間違いない。

 魔装騎兵たちが神民魔人たちの首をはねていく。

 しかし、一つの魔血ユニットの警告音が甲高い音を立てだした。

 そしてその音を皮切りに魔血切れを示す警報が次々となり始めた。

 ココは駐屯地とは違う。

 魔血タンクのストックは後方の部隊にはありはしない。

 それぞれの魔装騎兵が持つ魔血タンクの予備が一本のみ。

 それが切れれば人魔症が発生する。

 だが、前方の神民魔人たちの群れの層はまだまだ、ぶ厚い。

 ――やはり、魔血タンクがもたないか……

 魔装騎兵の誰もがあきらめた。

 あきらめは、魔装騎兵の気勢をそいでいく。

 徐々に押し込められる魔装騎兵たち。

 次々と倒れ落ちていく。


 しかし、間延びする神民魔人の後方で魔人たちの叫び声が上がった。

 そう、今、第七の神民兵たちが神民魔人の後方を突き崩したのだ。


 融合国内では人魔化騒動の真っ最中。

 神民街を清浄化するだけで精一杯。

 来るはずもない援軍に、神民魔人たちはたじろいだ。

 そもそも、個々が勝手に動く魔人たちの集団。

 最初から統率などあり得ない。

 前の第五の魔装騎兵、後ろの第七の神民兵。

 神民魔人たちは、思い思いに攻撃を仕掛ける。

 狭い狭い狭路の中で、前に後ろにと行き交う神民魔人の部隊は混乱する。


 第七の神民部隊は、とっさにその向きを変えた。

 コウケンの指示の通り、すかさず、騎士の門へと退却を始める。

 その一糸乱れぬ隊列は、目の前の神民魔人の無様さをさらに強調した。


 第七の神民部隊の後を追う神民魔人たち。

 一方、第五の魔装騎兵を相手にする神民魔人。

 すでに、狭い峡谷の中でぐちゃぐちゃである。


 だが、これは第五の魔装騎兵隊にとっては好機であった。

 いままで細い峡谷というボトルの首に神民魔人の部隊と言う太いコルクが刺さっていた。

 抜こうにも深く刺さって動きはしない。

 しかし、コルクの半分がちぎれてなくなった。

 もうボトルを塞ぐコルクは半分。

 今の第5の魔装騎兵たちの圧力を押さえつけるだけの力は既にない。

 魔装騎兵たちは、残りの魔血タンクを突っ込んだ。

 魔血ユニットから甲高い音がなり響く。

 奮い立つ魔装騎兵たちは、雄たけびをあげて突っ込んだ。

 目の前の神民魔人たちに渾身の力を叩き込む。

 その圧力に屈するかのように、神民魔人たちの部隊は徐々に細長い狭路から後ずざる。

 内圧が減った魔装騎兵の部隊の様子は、後方を預かるアグネスにも伝わった。

 前線が動く!

 アグネスは、一気に騎士の盾を大きく展開させた。

 その光に目の前の魔人たちが次々と押し出されていく。

 さらに大きく広がる騎士の盾。

 しかし、その光は一瞬で消え去った。

 だが、その瞬間、アグネスは身をひるがえす。

「全軍突撃!」

 アグネスは叫ぶと、薄くなった前方の神民魔人たちの部隊へと駆け込んだ。



 ここは融合国の神民街。

 神民街に大量発生していた人魔たちは、騎士や魔装騎兵、守備兵たちの働きによってほぼ全て刈り取られた。

 そのおかげで、神民街は落ち着きを取り戻し始めていた。

 だが人魔以外にも、人魔症にかかった者たちも多くいる。

 引き続き街では人魔チェックがなされていた。

 しかし、ここは神民街。

 ここに住まう神民たちは、騎士の門のフィールドを維持するために必要な人間たちだ。

 人魔症にかかったからと言って、おいそれと人魔収容所に収容するわけにはいかない。

 まかりまちがって、収容所にでも入れようものなら、神民の所有騎士からのクレームが入ることは想像に難くない。

 そのため、人魔症にかかったものは全て神民病院へと運ばれた。

 神民病院は、あれだけ大量の人魔が集中したにもかかわらず、機能していたのだ。

 というのも人魔の襲来を受けた神民病院は、なぜかタカトの病室と中庭以外は、ほぼ無傷。

 これもタマホイホイのおかげと言うべきなのだろうか。


 しかし、一方、コウスケは、人魔収容所へ収監されていた。

 深夜、怪獣の着ぐるみを着て走っていたのであるから、不審者と言えば、不審者である。

 しかも、残念なことに、人魔の魔血をかぶった時は、まだ、人魔が大量発生する前であった。

 その時点、神民街の人魔捜索に当たっていたのは人魔管理局の者である。

 この者たちは、人魔症の発症の恐れがありそうなものはソフィアの命令で全て人魔収容所に送っていたのであった。


 人魔収容所に送られたコウスケは、小さな部屋の中にポツンと置かれた小さな椅子に座らされていた。

 コウスケの目の前には小さな机。

 対面の検査官が手に持つ人魔検査の結果を見ながら頭をかいていた。

 苛立つコウスケは、声を大にする。

「俺は人魔症ではない! しかも、セレスティーノ様の神民だ!」

 守備兵は、コウスケの人魔チェックを行ったものの陰性である。

 しかも、着ぐるみを脱がすと確かにセレスティーノの神民の刻印が胸にある。

 どうしたものかと、検査官は再び頭をかいた。

「ソフィア様、この者、陰性です。いかがいたしましょう?」

 ソフィアはいう。

「構わん! 末期の人魔症と言うことで処理しておけ」

「神民であることは間違いないのですが、構わないのですか?」

「構わん。他のもの同様、腐らないのであれば貯蔵室へ放り込んでおけ!」

「そうですか、では……」

「くれぐれも、ケテレツには手を出すなと伝えておけ!」

「かしこまりました」

 守備兵たちは、コウスケを貯蔵室と呼ばれるフロワーに連れていく。



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