第五章 神民病院へご入院

第174話 恋のかく乱(1)


「これを使って……これを見せれば、私と勘違いするから」

 エメラルダは手にする黄金弓をミーアに手渡した。


「タカト君、小剣を貸してくれる」

 不思議そうな顔をするタカトは言われるがまま小剣をエメラルダに手渡した。


 エメラルダは、右手で強く小剣を強く握りしめる。

 そして、左手で自分の金色の長い髪を束ね掴んだかと思うと、その小剣を首辺りにあて、その長い髪を一気に切り落とした。

 左手にエメラルダの長い金色の髪がつかまれ、その先端を地につけていた。

 何が起こったのか分からない周りの人々は、唖然とその様子を見つめるのみであった。


 エメラルダはその髪の端をぎゅっと縛ると、笑いながらミーアに手渡した。

「ローブをかぶって、フードからこの髪をたなびかせれば、絶対に私と勘違いするから!」


「あぁ……」


 そこまでするかと言わんばかりミーアは、表情が固まっていた。

 髪は女の命。

 しかし、切る前ならその行為を止めもしたが、すでに切ってしまった後である。

 ミーアは、受け取ったもののどうしたものかと思案する。


 見かねたタカトはエメラルダから小剣を取り戻すと身につけるアイナちゃんのシャツの裾を切り裂き、ヒモじょうにした布を作り出した。


「貸して」

 タカトは、金色の長い髪の結び目をほどき、いくつかの束に分けるとヒモで固く縛りあげていく。

 そして、それを次々とローブのフード縁へと結びつけていった。


「即席だけど、少しの間ぐらいならもつと思う」

 ローブをまといフードをかぶったミーアから、金色の長い髪が垂れていた。その手には黄金弓が輝いている。フードに覆われ顔が見えないせいで、その様子からエメラルダに見間違ってもおかしくなかった。


「必ず生きて帰ってね。約束よ・・」

 エメラルダは、懸命に笑顔を作る。

 しかし、どことなくその笑顔は辛そうであった。


「あぁ、分かってる。それにしても、タカト、お前はすごいよ」

 ミーアは、タカトの肩をポンと叩くと、森の中へと風のように消えて行った。


 顔を赤くするタカト。


「いや、それほどでも……しかし!オオボラのやつ!」

 タカトは万命寺の方向を見ながら毒を吐く。


 権蔵は、びっくりした様子でタカトに話しかけた。

「なに、オオボラが来よったのか……タカト、それなら、お前は一旦、家に帰れ」

「どうしてだよ!」

「オオボラは、この小門のことを知っておる。お前がここにいることを知られるとあとあと面倒じゃ。オオボラだと、わしらの家のことも知っておる。お前が帰って小門は無関係というアリバイを作っておけ」


 タカトはポンと手を打った。

 そうか、オオボラが帰るときには森の道を通るはず。

 その時に、偶然を装ってオオボラに近づき、そして、どつけばいいのか。


 タカトの顔がどんどんとにやけていく。

 ――待ってろよ! あんにゃろ!


「分かったよ。じいちゃん!」

 そういうと、タカトは森の中へと走り出していった。


「くれぐれも見つかるんじゃないぞ!」

 権蔵は、走っていくタカトを心配そうに見つめた。


「待ってよぉ~」

 ビン子は、バタバタと走っていくタカトを必死で追いかけた。

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