第115話 凋落のエメラルダ(7)
一体どれだけの時間が過ぎたのであろうか。
エメラルダは、もうろうとする意識の中で、未だ牢獄に吊り下げられていた。
目を下げると、本来あるはずの左胸がなくなっている。
止血しかされていないエメラルダには、激しい痛みが伴うはずであったが、不思議と、何も感じなかった。
意識を取り戻すたびに、エメラルダは、はげしい凌辱を受け続けていた。
そして、また、気を失うたびに、体中のあらゆる傷口に、傷薬と抗生剤が塗り込まれていく。
この繰り返しが、何十回、何百回と続いていた。
ここにつながれてから食べ物を口にしていないエメラルダの体は痩せこけていた。
ぼやけた視界に男の足が見えた。
ひいっっっ!
激しく鎖を揺すり抵抗するエメラルダ。
幾度となく抵抗を繰り返してきた手首の肉が、手枷により激しくえぐられ固まっていた。
男は、エメラルダを凌辱することなく、その眼前で足を止めた。
ホッとするエメラルダに、久方ぶりに笑みが戻った。
救いを求めるかのように、顔をあげるエメラルダ。
しかし、男は汚いものを見るかのように、馬鹿にした笑みを浮かべ見下していた。
その男は、アルダインであった。
「あの気高く美しかったエメラルダが、このように薄汚く、みじめな姿になるとはのぉ」
エメラルダは、鎖を激しく揺らし震え出した。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」
ひたすら謝るエメラルダ。
「そうだな、そろそろ飽きてきたし、今宵が最後だ」
アルダインは、怯えるエメラルダの後ろにまわると、鎖を揺らし始めた。
これで最後……
いつも痛みしかないのに、今のエメラルダには、少し優しく感じられた。少しで早く終わらせ解放されたい。そんな気持ちが芽生えたエメラルダは、生まれて初めて自ら腰を振った。
これで終わり……
白い滴をたらし、肩で息をするエメラルダに力ない笑みが浮かぶ。
エメラルダが、力なく顔を上げた。
そこには、いつものようにネルを膝まづかせているアルダインがいた。
しかし、その横には見慣れぬものがあった。
それは、七輪のような土製の窯の中で赤々と燃え盛る炎であった。
ネルの頭を突き放したアルダインは、再びエメラルダに向きを変えた。
ネルが口を押さえ激しく咳き込んでいる。
「エメラルダ、喜べ。ここから出してやるぞ」
エメラルダには、その言葉がいい意味の言葉でないことがすぐに理解できた。
なぜなら、笑いながら近づいてくるアルダインの手には赤く熱を帯びた棒が握られていたのだ。
ひいっっっ!
再び、激しく鎖を揺すり抵抗するエメラルダ。
男たちが、エメラルダの顔を力任せに押さえつけた。
痩せこけたエメラルダの顔の肉が歪む。
「お前には、罪人として、守備兵たちの士気を高める仕事をしてもらおう」
アルダインは笑いながら、エメラルダの頬に罪人の焼きごてを近づけた。
熱で美しい金色の前髪がこげた匂いを放つ。
激しく震えるエメラルダの黒い瞳が、近づく赤い熱を凝視する。
いっ……いやぁ……
頬にあてられる鉄の棒。
肉が嫌な音を立ててこげていく。
悲鳴を上げ、激しく抵抗するエメラルダ。
鉄の棒がゆっくりと離れていく。
棒に引っ付いた肉がエメラルダの顔を引っ張る。
アルダインが楽しむかのように棒を、さっと引くと、エメラルダの頬の皮は引きちぎられた。
頬には、真っ赤に焼けただれ罪人のしるしが焼き付けられていた。
またしても、エメラルダは、口から泡を吹き失神し、失禁してしまった。
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