第91話 青いスライム(3)

 タカトは、青いスライムにかけよると、左わきにさっとかかえ、一心不乱にまっすぐに走り抜けた。

 と言うのも、タカトの後ろには腹をすかせたクロダイショウとオオヒャクテの群れがついてきていたのである。


 とにかくドーム内を逃げ回るタカト。

 腕に抱えたのが女の子なのか、スライムなのか確認すらできずに、とにかく走った。


 ずーっと暗く冷たい穴の中にいたスライムは、初めて温かさを感じた。

 するどい牙で食い荒らされたその体は、初めて優しさにつつまれた。

 スライムは静かにその腕の中に抱かれていた。




「今だったら逃げれるだろ!早く!助けを呼んで来い!早く!」


 逃げるタカトは、ビン子に叫んだ。

 ビン子は、はっと気づき周りを見渡す。確かに先ほどよりは数が少なくなっている。

 その証拠に岩肌がちゃんと見えるのだ。


「分かった!」


 意を決したビン子は、たいまつを片手に見える岩肌へと飛び降りた。

 そして無我夢中に出口へと続く道へと走り出した。


 そんなビン子の前にクロダイショウたちが立ちふさがる。

 武器を持たないビン子。

 とっさにカバンの中から何かを取り出した。


 開血解放し、大きく振ると、大風が目の前のクロダイショウたちを吹き飛ばした。

 しかし、その一回をして『スカートまくりま扇』は破れてしまった。

 どうやら、タカトが川へ滑り落ちた時にひっかけてしまっていたようである。


 だが、道は開かれた。


 ビン子は、道に向かって一心不乱に走り出す。

 すでにゴキブリいようが、ゲジがいようが関係なかった。



 洞穴が、ビン子をあざ笑うかのように、これ見よがしに道を二つに分けている。

 どちらに行けばいいのか分からない。

 それもそのはずである、オオボラが壁に印をつけていた時には、ビン子はすでに眠っていたのである。

 そのうえ、タカトは、その目印のことをビン子に知らせることを忘れていた。


 分かれ道を前に立ちすくんでしまうビン子。


「どっちに行ったらいいのよ……」


 また、迷ってしまった。

 この前の森に分け入った時と同じく半べそをかくビン子。


 しかし、今回のビン子は違った。何せ、このような経験は2度目である。

 カバンからバナナを取り出した。

 そう、それは『恋バナナの耳』であった。

 ビン子は開血解放し、『恋バナナの耳』を耳に押し当てる。


『……あのドアホが! ……』

 ぼやき声が聞こえる。


『……あれだけ入るなと言ったのに……』

 どうやら権蔵のようである。


 涙があふれ出すビン子。

 顔をあげ、進むべき方向を確認する。


 しかし、洞窟の中で不満らしき声は反響し、どちらの方向なのか全く見当がつかなかった。

『恋バナナの耳』を耳に当て、立ち尽くすビン子。


「権蔵じいちゃん!」

 大きくおらんだ声が洞窟内に反響しながら、奥の暗闇に飲み込まれていく。

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