第88話 小門と言う名のダンジョン(8)
ドームの中心を目指して歩くオオボラは、その真ん中に大きな穴を見つけた。
穴の周囲には爆発した時にでもできたのであろうか、無数の亀裂がはしり、その亀裂をガラス状の硬質な石が覆っていた。
その天井はドームの中でもひときわ高くなっており、その爆風がすさまじいものであったことを物語っている。
その天井の中心には一本の石筍が垂れ、ポトリポトリと水を落としていた。
どうやらその穴が爆心地で間違いなさそうである。
オオボラは、亀裂の状態を足で確かめながら、その穴の中を覗き込んだ。
穴の中では、無数の黒いものがうごめいていた。
無数にうごめいているため、ぱっと見では、その正体がよくわからなかった。
目を凝らすオオボラ。
それは、魔蛇クロダイショウと、魔ムカデのオオヒャクテの群れであった。
クロダイショウとオオヒャクテは長いもので大人用の金属バットぐらいの長さがあった。
中には子供用のバットサイズや、それ以下のものも無数にいる。
クロダイショウたちは穴の壁がガラス状になっているため、上へと昇ることができないでいた。
しかし、どうやって、この魔物たちは生きながらえていたのであろうか。
その黒く渦巻く中心には、青い塊が輝いていた。
エサが何もないこの穴の中で、その青い塊を食べることで、クロダイショウとオオヒャクテは生きながらえ、更にその数を増やしていたようである。
その青い塊は、どうやらスライムであった。
スライムは魔物たちにその体をかじられ、弱っているように見えた。
天井から垂れてくる水滴だけが、スライムをいやし、何とか、生き延びさせていた。
穴の中に何かを見つけたオオボラは、側の石を投げ込んだ。
黒い波にぽかりと穴が開く。
穴の中には、白骨化した人間とおぼしき死体が転がっていた。
こんなおおきな穴に落ちるとはよほどの間抜けなのだろうか……
魔物たちにとっては全く価値がなかったのであろう、白骨死体の周りには、剣や金貨など、いろいろなアイテムがその形をきれいに残し転がっていた。
おそらくその男の持ち物だったに違いない。
その白骨死体を覗くオオボラの目が何かを見つけた。
オオボラは瞬時に、カバンからロープをあるだけ引っ張り出した。
それを周りの岩に次々と結びつけると、一斉にその穴の中に放りこんだ。
穴の中でスライムしか食べていなかった魔物たちは、空から降ってきたロープに一斉にまとわりつく。
飢えた魔物たちはロープを登り、新たなエサを探すべく、上へ上へと昇り始めた。
ドームに登りついたクロダイショウたちがエサを探すべく四方に広がっていく。
ほどなくして、穴はスライムだけを残し空になった。
オオボラはロープを伝い素早く穴に降りたかと思うと、白骨の死体のそばに落ちていた手紙らしきものと金貨を手に取れるだけ取り、急いで穴をよじ登った。
一面はクロダイショウとオオヒャクテの群れでいっぱいであった。
オオボラは、岩陰で眠るタカトたちに目をやったかと思うと、たいまつを振りクロダイショウ達の群れの中に道を作っていった。
魔物たちは、眠っているタカトに気づく。すると、その周りに徐々に集まりだした。
オオボラの目の前の地面に洞窟の岩肌が見えた。明らかに魔物たちの数が少なくなった。
オオボラの前の群れがタカトへと流れていた。
松明を振り回すオオボラはチャンスとばかりにはしりだす。
しかし、その方向は、タカトたちの所ではなく、出口へと続く道だった。
タカトたちを守る素振りすら見せないオオボラは、少なくなった魔物の群れを振り払うと、手紙らしきものを握りしめ、矢印を頼りに、出口へとひた走っていった。
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