第四章 希望の光

第81話 小門と言う名のダンジョン(1)


 窓から差し込む光が、タカトを優しく起こす。本日もまた定期で机の上でのご就寝であった。

 当然、タカトの背後のベッドには、こちらもいつも通り、無防備のビン子が、襲われることなく、無事によだれを垂らしながら高いびきをかいている。


 だが、今日のタカトは、ここからが違っていた。


 目が覚めたタカトは、勢いよく立ち上がった。そして、後ろを振り返ったかと思うと、勢いよくビン子の頭めがけて空手チョップを叩き込む。


「いたぁい!」

 頭をかかえて飛び起きるビン子。


「お前まで、寝坊してどうすんだよ!」


「え……!?」


 すでに、オオボラとの待ち合わせ時間はとっくに過ぎていた。


「今日も、背負い投げ確定じゃんか……」


「そしたら、これで6回目だね」


「アホか! ビン子、お前が代わりに投げられろよ」


「嫌だよ……」


「あいつ、冗談通じないからな……マジで、たちが悪い」


 ぶつぶつ言いながら二人は急いで身支度を整えた。日ごろ、門に入ることを禁じている権蔵に気づかれないようにそっと足音を忍ばせる。6回目ともなると慣れたものである。こういう時の二人の呼吸は絶妙であった。コントで演じられる泥棒のように差し出す足がぴったりとそろう。


 権蔵が、大きな咳をする。


 二人の足が同時に止まる。

 ゆっくりと同じ回転速度で回る二つの頭は、寝ている権蔵の背中を伺った。


 だれも動かない……

 何も音がしない……


 顔を見合わせた二人は、再び、出口へと静かに忍んでいく。


 うす暗い二人の顔を、朝日がまぶしく輝かせた。その瞬間、脱兎のごとく緑の森の中に駆け込んでいった。




 息を切らせて走るタカトを、ビン子がもっと早くと言わんばかりに後ろから押している。


「もうだめだ……走れない……」

「また、投げられるよ」

「今さら、走ったところで、状況は変わらん!」

「それは、そうだけど、努力したことはオオボラだって分かってくれるわよ」


 速く走れとさらに強く押す。

 ハイハイとイヤイヤ走るタカトの目に、腕を組みながら待っているオオボラの姿が見えてきた。

 遠目で見ても明らかに怒っているのが分かる。


 タカトは、オラ! 頑張ったぞと言わんばかりに、はげしく息を切らし始めた。

 ビン子はオオボラのもとに駆け寄り、すぐさま頭を下げた。


「ごめんなさい。寝坊しました」


 オオボラは、ちらっとビン子を見ると、タカトをにらむ。


「悪い悪い、こいつが寝坊して、遅れた」


 タカトはビン子を指さし、頭をかきながら笑っている。

 一瞬、タカトの世界がぐるりと回ったかと思うと、背中に激しい痛みが襲った。

 目の前の視界が、一瞬接触不良を起こしたかのように、ブロックノイズが走る。

 しかし、回数を重ねるごとに、タカトの受け身もだいぶ様になってきたようであった。


「いてぇぇぇぇぇ!」


「遅い! この寝坊助が!」

 オオボラは開口一番怒鳴る。そのよこで、口に手を当てビン子が呆然とタカトを見つめていた。


「俺、低血圧なんだよ」

 あおむけのタカトが叫ぶ。そんな声をよそに、オオボラは森の中に入っていく。


「今日こそは見つけるぞ。早く来い!」

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